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トピックス

新たなスタートにあたって:新理事長からのメッセージ

 

理事長 田中 真介(たなか しんすけ)
京都大学

●はじめに

 新緑の季節,いかがお過ごしでしょうか。日本応用心理学会(The Japan Association of Applied Psychology; JAAP。略称「応心」)は,本年4月より,新しい理事会・常任理事会をスタートしました。学会ホームページの「役員・事務局」欄をご覧ください。https://j-aap.jp/?page_id=62
2024年4月から2027年3月まで,新しい理事長として田中真介,副理事長として来田宣幸,また軽部幸浩が事務局長を担当し,常任理事10名,理事・推薦理事36名で本学会の活動を支えていきます。どうぞよろしくお願いいたします。

●源流への信頼

 1)1998年の秋に,私は初めて本学会の年次大会を準備する仕事に携わり,京都の龍谷大学大宮学舎で多くのみなさんをお迎えしました。田中昌人先生が大会委員長を担われた第65回大会です。その時以来,年次大会に参加するたびに,あたたかいアットホームな学会だなということをよく感じてきました。一つの学術分野の「学会」というと,通常の場合には,機関誌に論文を発表し,また年次大会や研究会でほぼ同じ専門分野の研究者が一堂に会して研究成果を発表して,互いに切磋琢磨しあう場であることは確かです。ですが「応心」はそれだけでない魅力をもっていることが,一度この学会の大会に参加されてみるとよくわかっていただけるように思います。
 2)2000年代に入って,新しい理事会の制度が発足し,2003年4月に岡村一成先生が初代の理事長として着任されたとき,「伝統ある本学会の良さは,特定分野に偏らない,幅広い領域の研究者や実務家が家庭的雰囲気の中で,自由に議論し,交流が図られていることにあると思っております」と語っておられました。二代目の森下高治先生は,このあたたかさや連携は,「個人を超えた学際的な問題,他の領域の研究者とのリエゾン(liaison;連携)」を豊かに育むことにつながると提起されました。
 また三代目の藤田主一先生は,「本学会は,アカデミックな雰囲気に加えて,会員相互の親和を大切にするという伝統があり」,それによって心理学の応用領域を網羅した本学会は,「基礎と応用との輻輳的な関係」を実現し,「基礎心理学と応用心理学とが互いに関係しあった最先端の研究・実践内容に触れることができます」との貴重なメッセージを発信されています。これは,会員同士のあたたかいつながりが,心理学の諸分野の新たな研究の発展につながるという重要な問題提起となっています。
 近年のコロナ禍の状況の中でも,本学会が多彩な工夫をして会員同士のつながりを大切にし,一人ひとりの研究活動を支える工夫をしてきました。藤田先生からバトンを受け取られた古屋健先生は,本学会が100年近い歴史をもつ長寿の学会となっている理由として,応心には「人を育てる組織風土」があり,「新しい応用領域に挑戦する心理学者たちを積極的に応援し,若手・中堅会員の活躍の場を広げる」ことによって,本学会が長い歴史と伝統を育んでいると評価されていました。会員の多彩な研究を支える本学会の活動が,心理学諸分野の次の100年に向けての飛躍を準備することになっているように思います。
 3)「応心」のもっている深いあたたかさと前向きな明るさは,基礎的な研究だけでなく,多彩な社会実践の活動と取り組む中で培われた応心独自の力かもしれません。そしてそれが多様な分野をつないで問題に新たな光をあてて解決の糸口を照らし出していく。本学会のこうした不思議な魅力はどこから湧き出てきているのでしょう。とくに現実の社会の中でもっとも立場の弱い人たち,気持ちを言葉で表すことが苦手な子どもたちを優しく包み込むような雰囲気をもつこの学会には,そのようにいろんな人たちを支え励ます根源的な力が脈々と受け継がれ,また新たに生み出され育まれているように感じます。
 私は,本学会を通じて共同研究に取り組み,また年次大会に参加する中で,相手を励ますそのような温かな心の源泉が湧き出ている瞬間を何度も体感してきました。多彩な分野の先輩・同輩・若手の方々と出会って交流し,またこうしたあたたかな時空間との思いがけない出会いがあって,研究生活の中での新たな楽しみとなったように思います。

●人間のお風呂,人間の薬

 このあたたかな雰囲気の大切さを,実社会の中で子どもたちを助ける活動の中で,肌で実感した経験があります。私がまだ駆け出しの頃のことですが,二人の恩師とともに,医療被害を受けた子どもたちの発達と療育の研究と,その家族の生活を支えるための新たな調査研究に取り組んでおりました。
 1992年秋そして翌1993年1月に,大阪高等裁判所での予防接種被害集団訴訟の証人質問のために,京都大学の田中昌人先生と奥様の滋賀大学,田中杉恵先生の3人で京都から大阪に向かいました。お二人は,ワクチン接種によって重い副作用被害を受けた方たち22名全員の健康と発達の状況について実態調査と発達診断を実施され,予防接種の副作用で受けた発達上の障害が,通常の知的発達遅滞とは質的に異なることを立証されていました。被害を受けた子どもたちの家族の生活の困難さをとらえるために,一昼夜ビデオ映像記録を撮り続ける「24時間タイムスタディ」を行っておられたことも印象深く記憶しています。
 大阪高裁に赴く前に,阪急梅田駅の2階にある喫茶店で一息入れて,当時新たに問題となっていたMMRワクチン(麻疹・おたふくかぜ・風疹の三種混合ワクチン)による被害事件(1989~1993年)の経過と状況を詳しく伺いました。被害の実態を知ったのはこの時が初めてでした。私自身,BCGワクチンによって重度の障害を受けた乳幼児の療育研究を担っており,被害の実情は体感していました。この時期すでにMMRによる被害は全国に広がっていたにもかかわらず,国は接種開始から4年目を迎えてもこの欠陥ワクチンを中止できずにいました。1993年の接種見合わせが決定されるまでに,全国で1~2歳児6名が死亡し,1754名が無菌性髄膜炎などの重篤な副作用に苦しむことになります。最近でも,2020年以降のコロナ禍のあと,2024年になっても7回目,8回目と継続されてしまっているコロナワクチンの接種によって,厚労省への報告数だけで2000名を超える死亡者と4万件に上る重篤な副作用被害が出ています(応用心理学のクロスロード,16号,pp.25-26)。
 田中昌人先生は大阪高裁での証言の中で,ワクチンによって被害を受け重い疾患や障害を持つに到った方たちへの今後の療育のあり方について,「人間のお風呂」そして「人間の薬」が大事だとして,証人質問に答えて次のように話されました。裁判の速記録から要約して引用します。

 「家の中で一人でできていることも,それをさらに家の外でその力が発揮できれば,さらによりよく生きることができますね。しかし,予防接種被害を受けた方たちには特にそこに援助が必要です。絶えず親しい人がついていくか,あるいはその人とつながりのある人が受け止めていて,よく人間のお風呂というんですけど,それがあって初めて,力が発揮できる。そういうことでの配慮が必要ですね。温かな,受容される人間関係によって支えられなければいけない。そのような介護を充実させるとともに,国が法制度を整えて被害者とその家族を支え,生涯にわたって必要かつ適切で心のこもった公的な救済をしていくことが大切です。」
 「家庭の中だけでの療育では,発達的な貧しさが引き起こされがちです。力の発揮の場が1つだけであると,その人が持っている力を表せる場面が少ない。…決まりきったところで自分の持っている力を表すしかなくて,自分の力がほんとうに太っていく,普遍性をもっていくという条件がなくなっている。同じ寝たきりであっても,学校に行く,通所の授産施設に行く,といったことが可能となることによって,その一つの力が普遍性を持つ,普遍性への両足を持つことになります。具体的には,他の人が働きかけても,表情が出てきたりします。…家庭と違って,嫌だったら泣くでしょうし,お風呂へ入れてもらうときにも,親が入れるのとは違う入れ方によるいろんな受け止めができますね。あやしてもらったり,そのことによって,親御さんのほうも新たに新鮮な関係を作って,自分に,本人に携わるというふうに,両方が新鮮な関係を持って新しいつながりが作れるということですね。…ご両親や家族の方々というのは,かけがえのない人間の薬としての役割を果たされていると思います。」(応用心理学研究,38巻1号,pp.23-24)
 どんなに重い疾患や障害を担っていても,温かい「人間のお風呂」,そして「人間の薬」が,子どもたちをそしてその家族を支える。その確信がここに述べられています。「温かな,受容される人間関係」,「かけがえのない両親や家族の存在」,そしてさらにそれが社会の中で普遍化することの大切さが提起されておりました。このような取り組み,こうした人間のあり方こそ,応心が青年期・成人期の人たちの生き方を支え励ますためにずっと挑戦し自らの中に培ってきた伝統の精神として,貴重なものなのではないかと感じています。

●歴史と課題

 第2次世界大戦前の1927年に関西で「関西応用心理学会」第1回大会,関東では1931年に第1回「応用心理学会」大会が開催されました。1934年以降,隔年で合同大会を開催し,1936年の第2回合同大会で大会名を「日本応用心理学会」として現在に至っています。2022年秋には京都工芸繊維大学(来田宣幸委員長)で第88回,2023年夏の亜細亜大学(髙石光一委員長)で第89回大会,今年は奈良市の帝塚山大学(谷口淳一委員長)で第90回大会が開かれます。
 日本応用心理学会の設立後,本学会を起点として,個別の各分野の心理学会が設立され発展していきました。一方で,実社会の多様な問題にアプローチするためには,特定分野だけでなく,関連領域との協働・連携が重要となるでしょう。本学会の会員の専門領域は多岐にわたっていますが,関連の深い分野をひとつにまとめて部門構成を行い,各部門の研究の充実・発展を促してきました。

〔応心の部門構成〕
 ①(第1部門)原理・認知・感情
 ②(第2部門)教育・発達・人格
 ③(第3部門)臨床・福祉・相談
 ④(第4部門)健康・看護・医療
 ⑤(第5部門)犯罪・社会・文化
 ⑥(第6部門)産業・交通・災害
 ⑦(第7部門)スポーツ・生理

 本学会の研究活動は心理学の全領域を含むとともに,広く人文・社会科学,自然科学の各学術分野との連携も模索され,現実社会の問題をとらえた新たな共同の取り組みを構想してきました。応心という独特な学会は,心理学に限らず関連する多様な研究領域の「専門知」が交流する「学問的な広場」を作り出し,新たな「学術的な越境」を可能にする「総合知」,「学際知」,そして新時代の「教養知」を育む場となっています。
 このような歴史と特色をもった本学会では,私たち自身が研究者としての「自己信頼性」を大切に育みながら「社会的交流性」の力を生成発展させ,自分自身の専門的・総合的な力を高め充実させていけるように,会員のみなさんの研究と社会実践活動を支援していきたいと考えています。とくにこの1年は,以下の3つの観点について議論を深めていきます。

  • ①(研究基盤への支援)会員の研究・社会実践活動への支援策の拡充(特に若手研究者支援の充実)
  • ②(研究交流への支援)論文投稿・研究発表への支援。公開シンポ・研修会での研究交流の活性化
  • ③(社会活動への支援)委員会主催セミナーの構想と実践,国際学会への参加支援,専門資格の充実
 本年4月からの3年間,会員のみなさんと一緒に,本学会の活動を楽しく,よりよいものにしていきたいと考えています。お気づきのことや新たなアイデアなど,学会事務局あてに遠慮なく率直にご連絡ください。この8月には,帝塚山大学での大会でみなさんとお会いできるのを楽しみにしております。

2023年度 若手会員研究奨励賞受賞者

 権野 めぐみ

[所属]
  京都工芸繊維大学
[研究課題名]
  クラシックバレエ指導における言葉がけの効果と動作に関する研究  熟練者と成人学習者の比較
研究概要(「研究計画書」より,一部略)
 バレエの動作に関する指導上の言葉がけを定量的に評価し,指導に効果的な言葉がけを検討することを目的とする。研究1では,バレエの基本動作カンブレを行う際の言葉の分かりやすさについて質問紙を用いた定量的調査を行う。研究2では,研究1で用いた言葉がけを対象者に提示し,バレエレッスンでカンブレを実施し実験的検証を行う。

 巻田 晴香

[所属]
  同志社大学大学院心理学研究科博士後期課程2年次生
[研究課題名]
  適切な自己批判の促進による失敗後の動機づけの改善:新しいアプローチでの介入法の開発と効果検証
研究概要(「研究計画書」より,一部略)
 適切な自己批判を促進するという新たなアプローチに基づいた自己批判への介入法を開発すること,または介入法が失敗後の動機づけに及ぼす影響を検討する。具体的には,不適切な自己批判を低減させる適切な自己批判を増加させる介入法を開発する。


1.応募状況

 2023年度若手会員研究奨励賞は,2023年11月30日を申込締切日(当日消印有効)として募集されました。期日までに所定の応募書類を提出した応募者は4名で,旧審査部門でいえば第2部門に該当する内容が3件,第1部門該当の内容が1件でした。なお,提出書類は学会事務局(国際ビジネス研究センター)担当者が確認し,12月5日に審査委員長(田中堅一郎)の所属機関宛に郵送されました。

2.選考委員会

 応募者の提出した研究計画書と研究業績1点をPDF化し,審査を実施しました。選考委員会の構成は,委員長である田中堅一郎(学会活性・研究支援担当常任理事)の他,常任理事2名(軽部幸浩氏・上瀬由美子氏),委員長指名による委員2名(伊坂裕子氏・和田万紀氏)の合計5名でした。

3.評価基準

 応募書類は以下の4つの観点について「5:優れている-3:基準を満たしている-1:不十分である」の5段階で評価されました(20点満点)。
(1) 研究課題の学術的重要性・妥当性(「研究目的」欄など)
・学術的に見て,将来の発展が期待できる推進すべき重要な研究課題であるか。
・研究構想や研究目的が具体的かつ明確に示されているか。
・日本応用心理学会が支援するに相応しい研究上の意義が認められるか。
(2) 研究計画・方法の妥当性(「研究計画・方法」欄など)
・研究目的を達成するため,研究計画は十分練られたものになっているか。
・研究倫理上の配慮が必要とされる研究では,適切な配慮がなされているか。
(3) 研究課題の独創性及び革新性(「研究目的」「研究計画・方法」「研究の独創性・意義」欄)
・研究対象,研究手法やもたらされる研究成果等について,独創性や革新性が認められるか。
(4) 研究遂行能力の適切性(添付業績など)
・これまでの研究業績等から見て,研究計画に対する高い遂行能力を有していると判断できるか。

4.選考経過

 選考委員会は,メールによる審査書類の送信・審査結果の受信を繰り返し、最終決定のためのZoom Meetingによる会議が開催されました。まず,2023年12月11日より選考委員としての依頼を行い,承諾された後に応募者から提出された応募用紙を審査員に送信しました。
 各審査員が提出した審査結果から,審査員5名による応募者の総合評点は16.75から20.5の範囲(5段階評定による4項目について5名の平均得点を加算,評点範囲;5~25点)となりました。最高点の応募者Ⅱ(権野氏)以外の3名の応募者の得点は拮抗しており,審査員講評の評価も分かれていました。そこで,審査委員長は最終選考のために以下の選択肢を用意し,2024年2月5日に各審査委員に提示しました。
 A.応募者ⅡとⅢ(巻田氏)は受賞者候補として採択,相対的に評価点の低かった応募者Ⅰ,Ⅳは不採択とする。
 B.評点最下位の応募者Ⅰは受賞者候補として不採択とし,のこりの3名(応募者Ⅰ,Ⅱ,Ⅳ)を採択とする。
 C.応募者全員を採択とする(4名採択の可能性については,事前に理事長に相談し了解を得た)。
 受賞候補者の最終決定を行うため,3月16日(土)午前9時55分より,審査委員全員出席のもと,Zoomを用いた審査委員会会議が開かれました。会議では最初に,審査委員長が候補者4名の紹介と各々の評点一覧を開示して,次いで各委員の意見を聴取しました。
 まず,最高点の応募者Ⅱは受賞候補として適切であり採択と了承されました。次に,研究計画の内容に不充分な点があると指摘された応募者Ⅰが不採択となりました。最後に,応募者Ⅲ,および審査評価が大きく分かれた応募者Ⅳが採択可否の論点となりました。審議の結果,目立って優れた評価を得られなかったものの応募者Ⅲは当該賞が若手会員の奨励を目的とする趣旨に基づき,受賞候補として採択となりました。応募者Ⅳについては,研究計画としては教育現場での実践的価値をもっているが,研究方法に研究倫理上の問題を孕んでおり,研究の独創性の評価も高くありませんでした。最終的には応募者Ⅳは受賞候補として不採択となりました。
 以上の審査委員会議での審議を経て,若手会員研究奨励賞の候補者として,権野めぐみ氏と巻田晴香氏を受賞候補者として推薦することに決定しました(会議は午前11時頃閉会しました)。その後、2023年3月29日(土)に開催された第7回常任理事会で上記の件が審議され、お二人が受賞者として承認されました。

5.講評

 審査委員が会議で提起された問題と応募者の研究計画についてのコメントを以下に纏めて示します。

  • 受賞者として不採用となった応募者Ⅰについては,研究の独創性および研究方法の詳細を再考された上,次年度以降再応募されることが期待される。
  • 同じく受賞者として不採択となった応募者Ⅳについては,(もし研究計画通りに研究が行えられれば)教育現場をフィールドにした研究が行いにくい昨今の現状にあって貴重な研究となるだろう。研究の社会的意義は認められるので,研究倫理上の問題を再考されて,次年度以降再応募されることが期待される。
  • 受賞者となった応募者Ⅱは,改訂された応募資格をクリアしており,研究計画の内容も評価できるが,『過去の実績からして「若手会員」と見なせるのか』というコメントがあった。
  • 受賞者となった応募者Ⅲについては,研究の社会的意義や今後の応用的展開も視野に入れながら今後の研究を行ってもらいたい。
  • 審査の公正性の担保のために,審査員に送信される研究計画書における応募者の所属名,推薦者,さらに添付資料の学会発表や掲載論文の執筆者名も伏せ字にしてほしい。

6.今年度審査における反省と次年度への展望

 一昨年度から応募資格を改定して応募範囲を広げた結果,今年度の応募者数は4件となり,今までで一番多い応募数となりました。しかしながら,4名の応募者を担当する審査委員の作業負荷は大きくなり,また審査過程でのやりとりも複雑となって手続き上の不備もありました。次年度も今年度の応募状況に満足せず,複数の応募者を確保するために,若手会員および彼らを指導している会員に対して若手会員研究奨励賞についてのアナウンスとプロモーションが必要となるでしょう。

2022年度 若手会員研究奨励賞受賞者

 金山 英莉花

[所属]
  同志社大学 大学院心理学研究科 博士後期課程1年
[研究課題名]
  幼児期における「マルチモーダルな音程知覚」が「音程知覚と発声運動の統合」に及ぼす影響
研究概要(「研究計画書」より,一部略)
 幼児教育においては,歌唱などの音楽活動を通して幼児が楽しむことは重要とされているが,幼稚園教員や保育士は,音楽活動の援助をする際,子どもの個人差や能力の違いに難しさを感じている。歌唱をするためには模範となる歌声を聴き,その音程やリズムなどを知覚して発声運動と統合することが必要である。また,旋律の歌唱には空間認知能力が必要な能力の一つと考えられる。本研究の目的は,幼児の空間認知能力を考慮し,マルチモーダルな音程感覚が音程の知覚と発声運動の統合に及ぼす影響について実証的に検討することである。


1.応募状況

 2022年度若手会員研究奨励賞は,2022年11月30日を申込締切日(当日消印有効)として募集されました。期日までに所定の応募書類を提出した応募者は1名で,旧審査部門でいえば第2部門に該当する内容でした。

2.選考委員会

 応募者の提出した研究計画書と研究業績1点をPDF化し,審査を実施しました。選考委員会の構成は,委員長である田中堅一郎常任理事(学会活性・研究支援担当)の他,常任理事2名(田中真介氏・上瀬由美子氏),委員長指名による委員1名(松浦美晴氏:山陽学園大学総合人間学部)の合計4名でした。なお委員長(田中堅一郎)が指名した審査委員はあと1名おられましたが,審査の諾否と結果の回答ともに得られませんでした。

3.評価基準

 応募書類は以下の4つの観点について「5:優れている-3:基準を満たしている-1:不十分である」の5段階で評価されました(20点満点)。 (1) 研究課題の学術的重要性・妥当性(「研究目的」欄など)
・学術的に見て,将来の発展が期待できる推進すべき重要な研究課題であるか。
・研究構想や研究目的が具体的かつ明確に示されているか。
・日本応用心理学会が支援するに相応しい研究上の意義が認められるか。
(2) 研究計画・方法の妥当性(「研究計画・方法」欄など)
・研究目的を達成するため,研究計画は十分練られたものになっているか。
・研究倫理上の配慮が必要とされる研究では,適切な配慮がなされているか。
(3) 研究課題の独創性及び革新性(「研究目的」「研究計画・方法」「研究の独創性・意義」欄)
・研究対象,研究手法やもたらされる研究成果等について,独創性や革新性が認められるか。
(4) 研究遂行能力の適切性(添付業績など)
・これまでの研究業績等から見て,研究計画に対する高い遂行能力を有していると判断できるか。

4.選考経過

 選考委員会は,新型コロナウイルス感染の影響を配慮して,メール会議の形式で開催されました。まず,2022年12月10日より選考委員としての依頼を行い,承諾された後に応募者から提出された応募用紙を審査員に送信しました。
その結果,応募者の総合評点は(2)以外の観点別評点がすべて「4」以上で,また総合得点でも14.3点(ただし一人の審査員のみ(4)が回答保留)と高得点を得ました。しかしながら,(2)の評点だけは平均2.3となり,研究計画・方法の妥当性の面でいくつかの問題が指摘されました。
選考委員から送られた審査結果報告書を審査委員長が総括し,「申請者の今後の研究の進展を期待したいので,私としては「受賞に適している」と判断したい」旨を2023年2月10日に返信しました。これについて選考委員からメールでコメントを頂き,受賞について異議は出なかったため,同年2月13日に審査委員長が今回の応募者は「受賞に適している」ということで合意したと判断できる旨審査員に連絡し,金山英莉花氏を受賞候補者として推薦することに決定しました。

5.講評

 昨年度から応募資格を改定して応募範囲を広げましたが,今年度の応募者数はわずか1件でした。応募者なし・受賞者なしという事態は避けることができましたが,昨年度と同様応募者が少ないことに変わりがありません。今後は若手研究者を指導している会員に対しても,改めて若手会員研究奨励賞についてのアナウンスが必要かもしれません。  選考経過にありますように,今年度受賞された金山氏の研究については,研究計画や方法について課題はあるものの,審査委員全員から高い評価が得られ,選考委員会において全会一致で受賞が決定いたしました。代表的な意見として,ある審査員の講評を上げておきます:
「幼児教育での音楽活動,とくに歌唱指導について,心理学的な特徴を把握した上で,実践的な指導・援助の方法を新たに提起しようとする意欲的な研究であり,本学会の「若手会員研究奨励賞」の受賞に値する貴重な研究と評価される。」
「新規性の高い大変興味深く,意義のある研究と思います。「マルチモーダルな音程知覚」による歌唱指導を(審査者が)受けることができていれば,自分も歌をうまく歌えるようになったのにと考えてしまいました。」

2021年度 若手会員研究奨励賞受賞者

 横井川 美佳

[所属]
  京都大学 大学院人間・環境学研究科 博士後期課程 2年
[研究課題名]
  発達に支援が必要な子どもたちとのポジティブな経験の重要性
研究概要(「研究計画書」より,一部略)
 本研究では,保護者や支援者が,発達に支援が必要な子どもたちと関わる中でポジティブな経験をどのように感じ,どのように受けとめているのかをアンケート調査によって把握し,子育ておよび支援の「経験」の内容と,職種,所属施設の種別,関わりの形態などの属性との関連性を検討する。それによって,(1)発達に支援が必要な子どもたちを支える上で重要となる「経験」内容の要素を解明する。また,(2)支援活動を担う人材を育成するためのプログラムの作成において重要となる内容を新たに提起することを目的とする。


1.応募状況

 2021年度若手会員研究奨励賞は,2021年11月30日を申込締切日(当日消印有効)として募集されました。期日までに所定の応募書類を提出した応募者は2名でした。それらは審査部門でいえば第2部門と第7部門に該当する内容でした。

2.選考委員会

 応募者の提出した研究計画書と研究業績1点をPDF化し,審査を実施しました。選考委員会の構成は,委員長である田中堅一郎常任理事(学会活性・研究支援担当)の他,常任理事2名(上瀬由美子氏・木村友昭氏),委員長指名による委員2名(青木みのり氏・軽部幸浩氏)の合計5名でした。審査委員には応募者自身が申告した審査部門に該当する第2部門,第7部門に1名ずつの委員が含まれました。
 新型コロナウイルス感染拡大のため,2021年1月13日から1月28日にかけてメール審議で開催された選考委員会において選考が行われ,応募者についての審査の結果,受賞候補者2名が受賞内定となりました。しかしながら,この審査後,受賞内定となった応募者の1人から応募を辞退したいという旨の連絡が選考委員長に来ました。また当該応募者は学会事務局に審査辞退の依頼を申し出たため,委員長が各選考委員にこの旨を伝え,最終的に今回の受賞者は審査辞退された1名を除いた1名が受賞候補者として推薦することが選考委員全員に了承されました。その後,2021年度3月26日(土)に開催された第6回常任理事会で審議され,承認されました。

3.評価基準

 応募書類は以下の4つの観点について「5:優れている-3:基準を満たしている-1:不十分である」の5段階で評価されました(20点満点)。 (1) 研究課題の学術的重要性・妥当性(「研究目的」欄など)
・学術的に見て,将来の発展が期待できる推進すべき重要な研究課題であるか。
・研究構想や研究目的が具体的かつ明確に示されているか。
・日本応用心理学会が支援するに相応しい研究上の意義が認められるか。
(2) 研究計画・方法の妥当性(「研究計画・方法」欄など)
・研究目的を達成するため,研究計画は十分練られたものになっているか。
・研究倫理上の配慮が必要とされる研究では,適切な配慮がなされているか。
(3) 研究課題の独創性及び革新性(「研究目的」「研究計画・方法」「研究の独創性・意義」欄)
・研究対象,研究手法やもたらされる研究成果等について,独創性や革新性が認められるか。
(4) 研究遂行能力の適切性(添付業績など)
・これまでの研究業績等から見て,研究計画に対する高い遂行能力を有していると判断できるか。

4.選考経過

 選考委員会では,学会活性・研究支援担当常任理事と選考委員4名で審査にあたりました。選考委員4名は機関誌編集委員会担当常任理事,学会賞選考担当常任理事,および選考委員長が指名した2名の審査委員で構成されました。審査は4つの観点別評価を中心に行われました。
 その結果,総合評点で1位の応募者については,観点別評点の平均がすべて「3」以上で,また総合得点でも14.8点と高得点を得ていたことから,全員一致で受賞候補者とすることに決定しました。
総合評点で2位の応募者については,観点別評点の総合得点が13.0となり,総合評価を「不可」と判定された委員が1人おられましたが,それ以外の選考委員の総合評価は「合格」となりました。
 この時点では選考委員会では応募者2名の受賞が相応しいと判断されました。しかしながらその後,2位の応募者が応募取り下げを申し出ました。その応募者の提出された申請書はすでに審査を終了しており,遡及しての応募取り下げは無理だと(委員長が)判断し,連絡者にその旨を伝えました。その後,その応募者から学会事務局宛に「選考審査の辞退」が3月11日付で申し出があったため,委員長が各選考委員にこの旨を報告し,2位の応募者の受賞の可否について改めて審議し,審査員全員一致で2位の応募の受賞は見送ることにし,最終的に今回の受賞者は審査辞退された1名を除いた1名を受賞候補者として推薦することが了承されました。その後,常任理事会に対して1名(横井川美佳氏)を受賞者として推薦し,もう1人の応募は「受賞辞退」として対応をお願いし,常任理事会で審議の結果,上記の通り承認されました。その後,横井川氏本人に2021年度若手会員研究奨励賞を受賞されたことを連絡し,ご本人が受賞を承諾されました。

5.講評

 今年度は応募資格を改定して応募範囲を広げましたが,応募者数はわずか2件でした。過去2年間受賞者が出ていなかったことを考えると,応募者なし・受賞者なしという事態は避けることができましたが,応募者が少ないことには変わりがありません。今後は応募資格の改定による応募範囲の拡張について,改めて会員の皆様へのアナウンスが必要かもしれません。
 選考経過にありますように,今年度は1名の方が受賞されることになりました。受賞された横井川氏の研究については,審査委員全員からすべての観点について基準以上のレベルを満たしていると評価され,選考委員会でも全会一致で受賞が決定いたしました。特に「研究課題の独創性及び革新性」と「研究遂行能力の適切性」の観点での評価が平均3.8と高く,応用心理学が取り組むべき重要な研究テーマであるとの評価を受けています。代表的な意見として,ある審査員の講評を上げておきます:「発達につまずきを抱える子どもたちへの支援は今日の大きな課題であり,その意味で本研究の社会的意義は大きい。子どもへの関わりにおいて,保護者や支援者がポジティブな経験をすることは,関わる側のモチベーションを賦活し,よりよい支援に結び付くことが予想される。これまで,保護者や支援者の困り感が研究対象とされることが多かった中で,ポジティブな経験に注目した本研究の問は大変独創的であり,これまでにない知見をもたらすことが期待される。」
 一方,2位の応募者の方については,審査委員間の評価が分かれたものの,研究対象がユニークだったことと,「研究課題の独創性及び革新性」では評価平均3.6とそれなりに高く評価されました。結果的には自ら審査辞退を申し出られたため,残念ながら今回は受賞には至りませんでした。
 最後に,会員の皆さんにお願いですが,一度応募して選ばれなかったとしても,改めて4つの観点から研究計画を練り直してチャンスがある限りチャレンジして頂きたいと思います。多くの会員の方の応募をお待ちしております。また,COVID-19の影響が続く中,心理学のように人を対象とする研究が必須な領域では,予定していた研究も実施できなくなる,あるいは計画変更を余儀なくされることもあると思います。学会といたしましても,会員の皆様の研究活性のためにできることを探っていく所存です。

2020年度 若手会員研究奨励賞

選考結果および選考経過

日本応用心理学会 常任理事
(学会活性・研究支援担当)
古屋 健

選考結果

2020年度若手会員研究奨励賞  該当なし

選考経過
 2020年度は,コロナ禍のために第87回応用心理学会大会が中止となり,通常の大会発表の機会が失われ,本学会独自の代替措置として「大会発表代替論文集」が発行されることになりました。そのため,通常の応募期間を後ろにずらして2021年3月15日を応募締切りとする変則的な募集となりました。その結果,1件の応募がありました。しかし,応募書類に不備があり,それ以後の審査は不可能と判断し,2020年度は「該当者なし」となりました。この選考結果は,2021年3月28日に開催(メール会議)された第6回常任理事会で審議され承認されました。
 「該当者なし」の判定は誠に残念ですが,来年度からは新しい体制となります。申請条件の緩和や,広報の工夫など,応募者の拡大に向けて建設的な見直しをする予定です。これからも,多くの若手会員の皆様のご支援とご協力をお願いいたします。

以上

ポスト・コロナを見据えて

 

理事長 古屋 健(ふるや たけし)
立正大学

 日本応用心理学会会員の皆様には,日頃より本学会活動に深いご理解とご協力を頂戴し,心より感謝申し上げます。さて,このたび多くの方のご推挙をいただき,思いがけず本学会第7期の理事長に選出されました。誠に身に余る光栄であるとともに,その責任の重さをひしひしと感じている次第です。何分にも微力な身で,会員の皆様方のお力添えなしには到底この重責を果たすことはできません。皆様のご支援とご協力を賜りますようお願い申し上げます。
 さて,2020年は新型コロナウィルスの世界的な感染拡大という歴史的な出来事によって,多くの貴重な人命が失われるとともに,広範囲にわたる社会活動が深刻な影響を受け,それまで普通と思われた生活さえも根底から脅かされた異様な年となりました。会員の皆様の中にも,コロナ禍の中で進めなければならない日常業務への対応などに追われ,予定していた研究活動の遅滞や中断に苦労された方も多かったことと存じます。例にもれずその影響は本学会にも及び,学会にとってはきわめて重要な活動を自粛あるいは中止とせざるをえない状況となりました。特に,8月に予定されていた第87回大会が中止となったことは,本学会の歴史の中でも初めてのことであり,誠に痛恨の出来事でした。藤田前理事長のご英断により急遽学会発表の代替措置をとり,会員の皆様に研究発表の機会を最低限保障することで,かろうじて学会としての責務を果たすことはできました。しかし,大会の会場で繰り広げられる会員同士の活気あふれる交流の機会を持てなかったことは,大会開催の意義を改めて考え直す貴重な機会ともなりました。私が理事長に選出されたのも,まさにコロナ禍の最中のことでした。そして,2021年も春をすぎた頃,ようやく感染拡大防止の切り札としてウィルス摂取の動きが活発化したことで,かすかな希望の光が見えてきました。そして今,私どもが取り組むべき課題は,やむを得ず停滞を余儀なくされた学会活動を一日も早く復興することであると考えています。
 まず,最優先事項として,優れたアイデアマンであった藤田前理事長が着手された事業をしっかり継承していく所存です。ひとつは,学会設立85周年記念事業として企画された『応用心理学ハンドブック』(福村出版)の刊行です。総頁800頁,編著者は本学会の会員を中心とする300名という大作で,当初は2020年度中に刊行される予定でしたが,コロナ禍のため編集作業が遅れてしまい,藤田前理事長在任中の刊行はかないませんでした。現在,第87回大会の開催中の刊行を目指して急ピッチで作業が進められています。関係者の皆様には大変ご心配をおかけしましたが,あとしばらくお待ち下さい。そしてもうひとつは,学会設立100周年を視野に入れた学会誌編纂作業です。この企画の目玉は,藤田前理事長が自ら取り組まれている名誉会員へのインタビューです。本学会は日本心理学会と並ぶ長い歴史と伝統を持つ学会であり,応用心理学の分野で日本を代表する歴代の研究者の活躍の舞台となってきました。このような機会に,私たちの代までこの学会を発展し維持してきた先輩たちにインタビューして,直接目撃し経験されてきた応用心理学の歴史について貴重な記録を残しておくことは,われわれ世代の重要な責務であると考えます。この作業もコロナ禍のため一時中断しておりますが,間もなく,再開できるものと期待しております。
 また,ポスト・コロナを見据えて学会活動の活性化を図る必要があります。ひとつは1995年から導入された認定「応用心理士」制度の活用と発展です。「応用心理士」資格認定制度がはじまってから既に25年が経過し,ここ何年間かの資格申請者の数は一桁台で推移しております。資格を取得したいという人を増やすためには,何よりも資格を持つことの利点を高める工夫が求められていると考えております。また,応用心理士の専門性を高めるための方策も必要でしょう。研修会のあり方も含めて,新しい「応用心理士」のあり方について検討していきたいと思っています。また,学会活性のための施策として,若手研究者の支援と院生会員の増員育成に力を入れたいと考えております。これまでも,院生会員の大会での発表には発表費を無料にする,大会でのワークショップ企画には補助金を出すなどの経済的支援を行い若手育成と大会活性を図ってきました。また,若手会員研究奨励賞についてもより利用しやすくなるよう全面的な見直しを行い,ますますの充実を図る予定です。
 最後に,機関誌『応用心理学研究』につきましては,2020年度,軽部前機関誌編集委員長が中心となってそれまでの「機関誌投稿・執筆規程」を全面的に改訂し,電子投稿システムに合わせた新たな「投稿・編集規程」,「執筆要領」,「投稿倫理規程」が制定されました。学会の最大の社会的使命はその機関誌を通じて優れた研究成果を広く公表することにあります。今期は時代に合わせて編集委員構成にも工夫を加え,新しい体制のもとに機関誌の質の向上を目指すことになりました。会員の皆様におかれましては,貴重な研究成果をふるって『応用心理学研究に』に投稿していただけますよう,心よりお願い申し上げて,ご挨拶とさせていただきます。

2019年度 若手会員研究奨励賞受賞者

 前田 楓

[所属]
  安田女子大学 大学院文学研究科博士後期課程 教育学専攻1年
[研究課題名]
  「一人でも避難できる」知恵をもたらす防災教育プログラムの考案
[審査部門]
  第2部門(教育・発達・人格)
研究概要(「研究計画書」より,一部略)
 「実証的なエビデンスにもとづき防災教育の短期的・長期的な効果を分析しようという試みはほとんどなされておらず,また,いかなる要因が長期的な効果をもたらすかを明確にしている研究はない。本申請研究の独創性は,その要因を明らかにするとともに,得られた研究成果を学校教育現場において実践可能な防災教育プログラムへと有機的につなげていくことを念頭に置いて計画している点にある。また,本申請研究は,児童生徒の『主体的に行動する態度』を育むうえで最も効果があると思われる防災教育に着目し,その短期的な教育効果のみならず,長期的な教育効果について詳細に検討することを目的としている。本申請研究の成果を具体的な防災教育プログラムへと展開できれば,その社会的な意義は極めておおきいといえる。」


1.応募状況

 2019年度若手会員研究奨励賞は,2019年10月31日を申込締切日(当日消印有効)として募集されました。期日までに所定の応募書類を提出した応募者は2名でした。内訳は第1部門と第2部門でした。

2.選考委員会

 応募者の提出した研究計画書と研究業績1点について,氏名を伏せた形でPDF化し,予備審査を実施しました。選考委員会の構成は,委員長・古屋健常任理事(学会活性・研究支援担当)の他,常任理事2名(市川優一郎氏・木村友昭氏),委員長指名による委員1名(軽部幸浩氏)の合計4名です。予備審査には応募者自身が申告した審査部門別に,機関誌編集委員会部門別編集委員1~2名が当たりました。
 2019年3月,新型コロナウイルス感染拡大のためメール審議で開催された選考委員会において最終選考が行われ,受賞候補者1名が選考されました。なお,本来であれば年度末に開催される第5回常任理事会で審議される予定でしたが,その会議が急遽中止となったため,2020年5月31日に開催された平成20年度第1回常任理事会(メール審議)において審議され,承認されました。

3.評価基準

 予備審査,最終選考ともに,応募書類は以下の4観点について「5:優れている-3:基準を満たしている-1:不十分である」の5段階で評価されました(20点満点)。
(1) 研究課題の学術的重要性・妥当性(「研究目的」欄など)
・学術的に見て,推進すべき重要な研究課題であるか。
・研究構想や研究目的が具体的かつ明確に示されているか。
・日本応用心理学会が支援するに相応しい研究上の意義が認められるか。
(2)研究計画・方法の妥当性(「研究計画・方法」欄など)
・研究目的を達成するため,研究計画は十分練られたものになっているか。
・研究倫理上の配慮が必要とされる研究では,適切な配慮がなされているか。
(3)研究課題の独創性及び革新性(「研究目的」「研究計画・方法」「研究の独創性・意義」欄)
・研究対象,研究手法やもたらされる研究成果等について,独創性や革新性が認められるか。
(4)研究遂行能力の適切性(添付業績など)
・これまでの研究業績等から見て,研究計画に対する高い遂行能力を有していると判断できるか。

4.選考経過

 選考委員会では,学会活性・研究支援委員1名(選考委員長の代理),選考委員長を除く選考委員3名,および予備審査に当たった機関誌編集委員会部門別編集委員による観点別評価得点を参考に慎重審議いたしました。
その結果,最上位者1名については観点別評点の平均がすべて「3」以上で,また総合得点でも13.7点(選考委員だけの平均は14.8点)と高得点を得ていたことから,全員一致で受賞候補者とすることに決定しました。
2位の応募者については,観点別評点平均が「3」未満の評価を受けた観点について意見を交換しました。その上で,受賞の可否について慎重に審議した結果,全員一致で2位以下の応募者からの受賞は見送ることに決定いたしました。

5.講評

 今年度の応募者数はわずか2件でした。年々減少する傾向が明らかとなり,いよいよ募集資格の拡張を検討することを決断しなければならない段階に来たと考えております。
 選考経過にありますように,今年度は1名の方が受賞されることになりました。受賞された前田氏の研究については,審査委員全員からすべての観点について基準以上のレベルを満たしていると評価され,選考委員会でも全会一致で受賞が決定いたしました。特に「研究課題の学術的重要性・妥当性」の観点での評価が平均4.0と非常に高く,応用心理学が取り組むべき重要な研究テーマであるとの評価を受けています。代表的な意見として,ある審査員の講評を上げておきます。「日本人は自分よりもだれかを助ける、他者を優先する行動が美徳とされる風潮があり、『自分の命を守る』という行為や意識が育ちにくいともいえる。このため、自分の命を自分で守る方法や他者を助けるための方法に関する心理学的研究は、大変重要な研究といえる。」
 一方,2位の応募者の方については,既に英文論文の業績もお持ちで「研究遂行能力の適切性」では評価平均4.0と非常に高く評価されました。しかし,「研究計画・方法の妥当性」に対する評価が審査委員の間で大きく分かれてしまい,評価平均を下げることになりました。特に,研究目的との整合性を問う意見があり,結果的に,残念ながら今回は受賞には至りませんでした。申請書の限られた文字数では詳細に研究を説明することは難しいと思いますが,審査委員会にはさまざまな部門の先生がいますので,応募の際には他の部門の先生にも理解しやすい申請書となるよう心がけて下さい。
 最後に,これは毎回お願いしていることですが,受賞から漏れた方も決して4つの観点すべてについて基準を満たさなかったということはありません。一度応募して選ばれなかったとしても,改めて4つの観点から研究計画を練り上げて,チャンスがある限りチャレンジして頂きたいと思います。多くの会員の方の応募をお待ちしております。また,コロナ禍の中,心理学のように人を対象とする研究が必須な領域では,予定していた研究も実施できなくなる,あるいは計画変更を余儀なくされることも多いと思います。学会といたしましても,会員の皆様の研究活性のためにできることを探っていく所存です。

さらなる飛躍した学会へ

理事長 藤田 主一(ふじた しゅいち)
日本体育大学

 日本応用心理学会会員の皆様には,各方面でご活躍のこととお慶び申し上げます。日ごろより本学会活動にご協力を賜り深く感謝申し上げます。さて,このたび役員選挙により,今期も理事長に選出されましたことは身に余る光栄に存じ,また身の引き締まる思いでございます。皆様のお力添えを賜りまして長い歴史と伝統を誇る本学会を引き継ぎ,さらなる発展を目指していきたいと思います。役員の皆様,会員の皆様には一層のご協力を賜りますようお願い申し上げます。
 日本応用心理学会はわが国の心理学界のなかでは日本心理学会とともに長い歴史を刻んでいる学会です。記録によりますと,昭和初期に関西と東京で応用心理学関連の研究会が会を重ね,関西では1927(昭和2)年4月に京都帝国大学において第1回の応用心理学会が開催され,東京では1931(昭和6)年6月に東京帝国大学で第1回の応用心理学会が開催されています。1934(昭和9)年4月に京都帝国大学で第1回の合同大会,1936(昭和11)年4月に広島文理科大学で第2回連合大会が開催され,第2回大会のときにはじめて「日本応用心理学会」という名称になりました。「応用心理学会」という学会名に「日本」が冠された最初ということになります。戦時による中断を経て,終戦後の復興第1回大会が日本大学で開催されたのは1946(昭和21)年3月のことでした。本学会は何と立ち上がりが早かったことでしょう。大会は1957(昭和32)年までは年に2回開かれ,1958(昭和33)年5月の大阪大学での第25回大会から年に1回の開催になり今日に至っています。
 本学会は「応用心理学」をキーワードに学問としての理論的研究ならびに社会的実践活動を両輪とする領域から組織され,本学会会員の皆様はそれぞれに社会の中枢で活躍しています。誠に頼もしい限りです。また本学会は,アカデミックな雰囲気に加えて会員相互の親和を大切にするという伝統があります。この伝統は他学会にはあまり見られない貴重なものですから,今後とも絶やすことなく継承していきたいと思います。一方でよく「基礎と応用」という言い方をしますが,心理学における基礎と応用は決して並列関係ではなく,また基礎を修得してから応用へ進むという二層構造でもなく,両者は互いに輻輳的な関係に位置づけられるものであろうと考えます。その意味で本学会は心理学の応用領域を網羅しておりますので,年次大会での研究発表やシンポジウム・ワークショップ,また本学会主催の公開シンポジウムなどに参加していただければ,基礎心理学と応用心理学とが互いに関係し合った最先端の研究・実践内容に触れることができます。これは他学会では果たし得ない本学会ならではの魅力であろうと思います。
 これからの本学会には長い歴史と伝統を継承しながら,さらに学会の活性化を目標に種々の改革に取り組んでいくことが求められます。この場を借りてそのなかから数点を取り上げます。第一の点ですが,このところ機関誌『応用心理学研究』への投稿論文数が激増しています。会員の皆様はご自身の研究成果や実践活動の成果を発表する場として機関誌へ投稿すると思われますので,2014年3月から従来の郵送による論文投稿を終了し,本格的に電子投稿システムを導入したことで審査システムを含め,会員の皆様のニーズに応えられる学会機関誌を目指していきたいと考えます。第二に「応用心理士」の専門性を一層高める取り組みです。現在,この資格を取得している会員は300名を超えています。「応用心理士」は,応用心理学の各領域に具体性をもつ資格として認知されなければなりません。そのため,より専門性に特化できる資格としてのあり方を検討していきます。研修会の充実などもその一端であろうと考えられます。第三は若手研究者の支援です。ここ数年,大学院生をはじめとする若手研究者の入会が大変増えています。若手研究者の入会は学会の活性化にもつながります。現在はそのひとつとして財政的な補助を行なっていますが,今後は財政的な面と並行して研究支援のあり方などを検討していくことが必要です。これらの諸点は,新体制においてすでに各委員会委員長を中心に活動を開始しています。またこれ以外にも広報活動,新規企画,国際交流などを含めいろいろな改革案,活性化案を具現化できるように進めているところです。加えて,年次大会80回を記念して日本応用心理学会編『現代社会と応用心理学』(全7巻)が順次刊行されております。
 以上,誠に僭越ではございますが理事長に就任いたしましたご挨拶に代えまして,過去・現在・未来を結ぶ本学会のあゆみと所信を申し述べさせていただきました。すべて会員の皆様にご支援を賜わらなければ一歩たりとも進むことができません。何とぞご協力くださいますよう幾重にもお願い申し上げます。

2018年度 若手会員研究奨励賞受賞者

 生田目 光

[所属]
  筑波大学大学院 人間総合科学研究科博士課程
[研究課題名]
  Fear of happinessの影響におけるマインドフルネスの媒介効果
     ポジティブ心理学第2の波に着目して
[審査部門]
  第3部門(臨床・福祉・相談)
[研究計画書より]
 従来の研究で扱われてきた概念のほとんどは,ポジティブかネガティブのいずれかに焦点を当てていた。しかし,本研究によって,今まで光が当てられることの少なかったアンビバレントな状態に焦点を当てることができ,今後の発展的な研究への道が拓かれると考えられる。また,Fear of happinessがウェルビーイングに及ぼす影響について,マインドフルネスという切り口で検討した研究は,日本だけでなく海外においても存在せず,独創性が高い。Fear of happinessの影響を緩衝する要因として,マインドフルネスが有効であることが示されれば,心理臨床の実践において,幸せを享受できない人々に対する介入へ示唆をもたらすなど,大きな意義をもつ。


選考経過

1.応募状況

 2018年度若手会員研究奨励賞は,2018年10月31日を申込締切日(当日消印有効)として募集されました。期日までに所定の応募書類を提出した応募者は4名でした。内訳は第3部門2件,第4部門1件,第5部門1件となっています。

2.選考委員会

 応募者の提出した研究計画書と研究業績1点について,氏名を伏せた形でPDF化し,予備審査を実施しました。選考委員会の構成は,委員長・古屋健常任理事(学会活性・研究支援担当)の他,常任理事2名(市川優一郎氏・木村友昭氏),委員長指名による委員1名(軽部幸浩氏)の合計4名です。予備審査には応募者自身が申告した審査部門別に,機関誌編集委員会部門別編集委員2名が当たりました。
2019年3月30日に開催された選考委員会において最終選考が行われ,受賞候補者1名が選考され,その結果は同日に開催された常任理事会において報告され,承認されました。

3.評価基準

 予備審査,最終選考ともに,応募書類は以下の4観点について「5:優れている-3:基準を満たしている-1:不十分である」の5段階で評価されました(20点満点)。

  1. 研究課題の学術的重要性・妥当性(「研究目的」欄など)
    • 学術的に見て,推進すべき重要な研究課題であるか。
    • 研究構想や研究目的が具体的かつ明確に示されているか。
    • 日本応用心理学会が支援するに相応しい研究上の意義が認められるか。
  2. 研究計画・方法の妥当性(「研究計画・方法」欄など)
    • 研究目的を達成するため,研究計画は十分練られたものになっているか。
    • 研究倫理上の配慮が必要とされる研究では,適切な配慮がなされているか。
  3. 研究課題の独創性及び革新性(「研究目的」「研究計画・方法」「研究の独創性・意義」欄)
    • 研究対象,研究手法やもたらされる研究成果等について,独創性や革新性が認められるか。
  4. 研究遂行能力の適切性(添付業績など)
    • これまでの研究業績等から見て,研究計画に対する高い遂行能力を有していると判断できるか。

4.選考経過

 選考委員会では,まず今年度の受賞者数について3名を上限とすることが確認されました。その上で,学会活性・研究支援委員1名(選考委員長代理),選考委員長を除く選考委員3名,および予備審査に当たった機関誌編集委員会部門別編集委員2名の計6名による観点別評価得点を参考に,上位者から順に受賞にふさわしいかどうか慎重審議いたしました。
その結果,最上位者1名については観点別評点の平均がすべて「3」以上で,また総合得点でも14.3点と高得点を得ていたことから,全員一致で受賞候補者とすることに決定しました。
2位以下の応募者については,観点別評点平均が「3」未満の評価を受けた観点について意見を交換しました。その上で,受賞の可否について慎重に審議した結果,全員一致で2位以下の応募者からの受賞は見送ることに決定いたしました。

5.講評

 今回も応募者数は4件に留まり,審査に当たった選考委員からもそろそろ募集資格の拡張を検討すべき段階に来たのではないかという意見を頂きました。開始当初から応募者数の拡大が課題でしたが,始まったばかりなのでしばらく様子を見守ることにしていました。しかし,既に3年度が経過し,やはり今後も大きな改善は見込めないことから,来年度の学会活性・研究支援委員会で検討することとしました。今年度応募していただいた会員の皆様にはあつく御礼申し上げます。
 選考経過にありますように,今年度は最終的に1名の方が受賞されることになりました。受賞された生田目氏の研究については,審査委員全員からすべての観点について基準以上のレベルを満たしていると評価され,選考委員会でも全会一致で受賞が決定いたしました。
 一方,2位以下の応募者の方々については,評価平均が「3」未満であった観点があったため,受賞には至りませんでした。今回は応募者数も少なく,選考にもれた応募についても意見交換がなされました。
 その中で,特に次点となった応募者については,そのテーマが応用心理学の研究に相応しく,かつその社会的意義も大きいとして複数の審査委員から非常に高い評価を受けました。しかし,残念ながら「研究計画」の最も重要な部分で説明が不十分であるとの指摘があり,協議の結果,受賞とはなりませんでした。おそらく,研究費申請書類の書き方に不慣れであったためと思われます。本賞の応募書類のフォーマットは,科学研究費を申請する時に求められる書類としては非常に短いものです。これからの学究生活の中では,限られた文字数の中で自分の研究をアピールすることも重要なスキルとなってきます。是非,文章を練り直して,再チャレンジしていただきたいと思います。
 今回の応募のうち2件が新しい心理尺度の開発を主な研究内容とするものでした。新たな研究対象には新たな測定道具が必要であり,心理尺度の開発は重要な研究テーマです。とはいえ,尺度開発が研究の最終目標ということではありません。心理尺度開発の研究計画を審査する場合,研究計画の実現可能性だけではなく,その対象を測定することの研究上の意義や,尺度開発後の研究の展望が重視されます。特に,応用心理学研究としての意義,あるいは開発した尺度の有用性は重要です。今回の2件の応募については,その独創性は評価されたものの,これらの点で説明不足と判断されました。
 このように,残念ながら受賞から漏れた方についても,決して4つの観点すべてについて基準を満たしていないということではありません。一度応募して選ばれなかったとしても,改めて4つの観点から研究計画を再検討し,文章を磨き上げた上で,再チャレンジして頂きたいと思います。多くの会員の方の応募をお待ちしております。

2017年度 若手会員研究奨励賞受賞者

 大工 泰裕

[所属]
  大阪大学大学院 人間科学研究科 博士後期課程
[研究課題名]
  社会的望ましさを排除した体罰容認度を測定する潜在的指標の開発
     紙筆版による教育現場での普及を目指して
[研究計画書より]
 本研究が提案するSC-IATによる潜在的体罰容認の測定は,過去の体罰研究で見逃されてきた社会的望ましさの影響を排除できる点で独創性がある。また,潜在的体罰容認度のほうが体罰行動を正確に予測すると実験的に示すことで,潜在的体罰容認度の高い人々にフォローアップを行うことが体罰防止に有効であることが示される。このような検討は,意識調査が中心であった過去の体罰研究とは一線を画すものである。
 また,研究2で開発するSC-IATの紙筆版は,体罰容認度を測定する現実の場面での応用可能性が高い。なぜなら,紙筆版を開発することによって,コンピュータ版では実質不可能な多人数に対する同時測定が可能になるとともに,体罰防止教育の効果測定として自己報告式の質問紙と同等コストで教育現場に導入することが可能になるからである。そのため,今後の教育現場での標準的な測定法となることが期待される。


選考経過

1.応募状況

 2017年度若手会員研究奨励賞は,2017年8月27日に開催された総会において設置が承認され, 2017年10月31日を申込締切日(当日消印有効)として募集されました。期日までに所定の応募書類を提出した応募者は5名でした。内訳は第部門3件,第5部門件,第7部門件となっています。

2.選考委員会

 応募者の提出した研究計画書と研究業績点について,氏名を伏せた形でPDF化し,予備審査を実施しました。予備審査には応募者自身が申告した審査部門別に,機関誌編集委員会部門別編集委員2名が当たりました。
 2018年4月8日に開催された選考委員会において最終選考が行われ,受賞候補者1名が選考され,その結果は同日に開催された常任理事会において報告され,承認されました。

3.評価基準

 予備審査,最終選考ともに,応募書類は以下の4観点について「5:優れている-3:基準を満たしている-1:不十分である」の5段階で評価されました。

  1. 研究課題の学術的重要性・妥当性(「研究目的」欄など)
    • 学術的に見て,推進すべき重要な研究課題であるか。
    • 研究構想や研究目的が具体的かつ明確に示されているか。
    • 日本応用心理学会が支援するに相応しい研究上の意義が認められるか。
  2. 研究計画・方法の妥当性(「研究計画・方法」欄など)
    • 研究目的を達成するため,研究計画は十分練られたものになっているか。
    • 研究倫理上の配慮が必要とされる研究では,適切な配慮がなされているか。
  3. 研究課題の独創性及び革新性(「研究目的」「研究計画・方法」「研究の独創性・意義」欄)
    • 研究対象,研究手法やもたらされる研究成果等について,独創性や革新性が認められるか。
  4. 研究遂行能力の適切性(添付業績など)
    • これまでの研究業績等から見て,研究計画に対する高い遂行能力を有していると判断できるか。

4.選考経過

 選考委員会では,まず今年度の受賞者数について3名を上限とすることが確認されました。その上で,予備審査に当たった機関誌編集委員会部門別編集委員2名と選考委員長を除く選考委員3名による観点別評価得点を参考に,上位者から順に受賞にふさわしいかどうか慎重審議いたしました。
その結果,最上位者名については観点別評点の平均がすべて「3」以上で,また総合得点でもそれぞれ15.8点と高得点を得ていたことから,全員一致で受賞候補者とすることに決定しました。
2位以下の応募者については,観点別評点平均が「3」未満の評価を受けた観点が複数あり,その点について意見を交換しました。その上で,受賞の可否について慎重に審議した結果,全員一致で2位以下の応募者からの受賞は見送ることに決定いたしました。

5.講評

 今回も応募者数は5件に留まり,まだまだ広報の努力が不足していることを反省いたしました。応募していただいた会員の皆様にはあつく御礼申し上げます。
 選考経過にありますように,最終的には上限3名より少ない名の方が受賞されることになりました。受賞された名の方については,審査者全員からすべての観点について基準以上のレベルを満たしていると評価され,選考委員会でも全会一致で受賞が決定いたしました。
 一方,2位以下の応募者の方々については,複数の観点で評価平均が「3」未満となっていたため,受賞には至りませんでした。今回は応募者数も少なかったため,選考にもれた応募についても細かい意見交換がなされ,議論されました。
 今回の審査で議論になった点のひとつは,応用心理学会として支援するに相応しい内容かどうかと言う問題でした。選考から漏れた応募の中には,研究計画はしっかりしており,業績から判断して充分な研究能力も認められるというケースもありました。しかし,選考での議論では,評価基準()の応用心理学研究としての意義が明確に伝わってこないという意見から,採用には至りませんでした。特に,第部門(原理・認知・感情)で応募を考えている方は,特にこの点について説得力のある論点を呈示する必要があると思います。
 他方,それとは逆に,問題提起の着眼点は興味深く研究の意義は高く評価できても,その問題に相応しい研究計画が立てられ,結果が期待できるかどうかという点で不安があるというケースもありました。新しい問題に対してはさまざまなアプローチが可能ですが,思いつく限りの疑問を一挙に解決しようとしても難しいでしょう。大風呂敷を広げるより,じっくりと一歩一歩着実にアプローチすることを考えて,入念な研究計画を立てて進めていくことが必要だと思います。
残念ながら今回受賞から漏れた方も,このような点から,是非もう一度研究計画書を見直して頂いて,再チャレンジして下さい。お待ちしております。