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2023年度 若手会員研究奨励賞受賞者

 権野 めぐみ

[所属]
  京都工芸繊維大学
[研究課題名]
  クラシックバレエ指導における言葉がけの効果と動作に関する研究  熟練者と成人学習者の比較
研究概要(「研究計画書」より,一部略)
 バレエの動作に関する指導上の言葉がけを定量的に評価し,指導に効果的な言葉がけを検討することを目的とする。研究1では,バレエの基本動作カンブレを行う際の言葉の分かりやすさについて質問紙を用いた定量的調査を行う。研究2では,研究1で用いた言葉がけを対象者に提示し,バレエレッスンでカンブレを実施し実験的検証を行う。

 巻田 晴香

[所属]
  同志社大学大学院心理学研究科博士後期課程2年次生
[研究課題名]
  適切な自己批判の促進による失敗後の動機づけの改善:新しいアプローチでの介入法の開発と効果検証
研究概要(「研究計画書」より,一部略)
 適切な自己批判を促進するという新たなアプローチに基づいた自己批判への介入法を開発すること,または介入法が失敗後の動機づけに及ぼす影響を検討する。具体的には,不適切な自己批判を低減させる適切な自己批判を増加させる介入法を開発する。


1.応募状況

 2023年度若手会員研究奨励賞は,2023年11月30日を申込締切日(当日消印有効)として募集されました。期日までに所定の応募書類を提出した応募者は4名で,旧審査部門でいえば第2部門に該当する内容が3件,第1部門該当の内容が1件でした。なお,提出書類は学会事務局(国際ビジネス研究センター)担当者が確認し,12月5日に審査委員長(田中堅一郎)の所属機関宛に郵送されました。

2.選考委員会

 応募者の提出した研究計画書と研究業績1点をPDF化し,審査を実施しました。選考委員会の構成は,委員長である田中堅一郎(学会活性・研究支援担当常任理事)の他,常任理事2名(軽部幸浩氏・上瀬由美子氏),委員長指名による委員2名(伊坂裕子氏・和田万紀氏)の合計5名でした。

3.評価基準

 応募書類は以下の4つの観点について「5:優れている-3:基準を満たしている-1:不十分である」の5段階で評価されました(20点満点)。
(1) 研究課題の学術的重要性・妥当性(「研究目的」欄など)
・学術的に見て,将来の発展が期待できる推進すべき重要な研究課題であるか。
・研究構想や研究目的が具体的かつ明確に示されているか。
・日本応用心理学会が支援するに相応しい研究上の意義が認められるか。
(2) 研究計画・方法の妥当性(「研究計画・方法」欄など)
・研究目的を達成するため,研究計画は十分練られたものになっているか。
・研究倫理上の配慮が必要とされる研究では,適切な配慮がなされているか。
(3) 研究課題の独創性及び革新性(「研究目的」「研究計画・方法」「研究の独創性・意義」欄)
・研究対象,研究手法やもたらされる研究成果等について,独創性や革新性が認められるか。
(4) 研究遂行能力の適切性(添付業績など)
・これまでの研究業績等から見て,研究計画に対する高い遂行能力を有していると判断できるか。

4.選考経過

 選考委員会は,メールによる審査書類の送信・審査結果の受信を繰り返し、最終決定のためのZoom Meetingによる会議が開催されました。まず,2023年12月11日より選考委員としての依頼を行い,承諾された後に応募者から提出された応募用紙を審査員に送信しました。
 各審査員が提出した審査結果から,審査員5名による応募者の総合評点は16.75から20.5の範囲(5段階評定による4項目について5名の平均得点を加算,評点範囲;5~25点)となりました。最高点の応募者Ⅱ(権野氏)以外の3名の応募者の得点は拮抗しており,審査員講評の評価も分かれていました。そこで,審査委員長は最終選考のために以下の選択肢を用意し,2024年2月5日に各審査委員に提示しました。
 A.応募者ⅡとⅢ(巻田氏)は受賞者候補として採択,相対的に評価点の低かった応募者Ⅰ,Ⅳは不採択とする。
 B.評点最下位の応募者Ⅰは受賞者候補として不採択とし,のこりの3名(応募者Ⅰ,Ⅱ,Ⅳ)を採択とする。
 C.応募者全員を採択とする(4名採択の可能性については,事前に理事長に相談し了解を得た)。
 受賞候補者の最終決定を行うため,3月16日(土)午前9時55分より,審査委員全員出席のもと,Zoomを用いた審査委員会会議が開かれました。会議では最初に,審査委員長が候補者4名の紹介と各々の評点一覧を開示して,次いで各委員の意見を聴取しました。
 まず,最高点の応募者Ⅱは受賞候補として適切であり採択と了承されました。次に,研究計画の内容に不充分な点があると指摘された応募者Ⅰが不採択となりました。最後に,応募者Ⅲ,および審査評価が大きく分かれた応募者Ⅳが採択可否の論点となりました。審議の結果,目立って優れた評価を得られなかったものの応募者Ⅲは当該賞が若手会員の奨励を目的とする趣旨に基づき,受賞候補として採択となりました。応募者Ⅳについては,研究計画としては教育現場での実践的価値をもっているが,研究方法に研究倫理上の問題を孕んでおり,研究の独創性の評価も高くありませんでした。最終的には応募者Ⅳは受賞候補として不採択となりました。
 以上の審査委員会議での審議を経て,若手会員研究奨励賞の候補者として,権野めぐみ氏と巻田晴香氏を受賞候補者として推薦することに決定しました(会議は午前11時頃閉会しました)。その後、2023年3月29日(土)に開催された第7回常任理事会で上記の件が審議され、お二人が受賞者として承認されました。

5.講評

 審査委員が会議で提起された問題と応募者の研究計画についてのコメントを以下に纏めて示します。

  • 受賞者として不採用となった応募者Ⅰについては,研究の独創性および研究方法の詳細を再考された上,次年度以降再応募されることが期待される。
  • 同じく受賞者として不採択となった応募者Ⅳについては,(もし研究計画通りに研究が行えられれば)教育現場をフィールドにした研究が行いにくい昨今の現状にあって貴重な研究となるだろう。研究の社会的意義は認められるので,研究倫理上の問題を再考されて,次年度以降再応募されることが期待される。
  • 受賞者となった応募者Ⅱは,改訂された応募資格をクリアしており,研究計画の内容も評価できるが,『過去の実績からして「若手会員」と見なせるのか』というコメントがあった。
  • 受賞者となった応募者Ⅲについては,研究の社会的意義や今後の応用的展開も視野に入れながら今後の研究を行ってもらいたい。
  • 審査の公正性の担保のために,審査員に送信される研究計画書における応募者の所属名,推薦者,さらに添付資料の学会発表や掲載論文の執筆者名も伏せ字にしてほしい。

6.今年度審査における反省と次年度への展望

 一昨年度から応募資格を改定して応募範囲を広げた結果,今年度の応募者数は4件となり,今までで一番多い応募数となりました。しかしながら,4名の応募者を担当する審査委員の作業負荷は大きくなり,また審査過程でのやりとりも複雑となって手続き上の不備もありました。次年度も今年度の応募状況に満足せず,複数の応募者を確保するために,若手会員および彼らを指導している会員に対して若手会員研究奨励賞についてのアナウンスとプロモーションが必要となるでしょう。