前田 楓
[所属]
安田女子大学 大学院文学研究科博士後期課程 教育学専攻1年
[研究課題名]
「一人でも避難できる」知恵をもたらす防災教育プログラムの考案
[審査部門]
第2部門(教育・発達・人格)
研究概要(「研究計画書」より,一部略)
「実証的なエビデンスにもとづき防災教育の短期的・長期的な効果を分析しようという試みはほとんどなされておらず,また,いかなる要因が長期的な効果をもたらすかを明確にしている研究はない。本申請研究の独創性は,その要因を明らかにするとともに,得られた研究成果を学校教育現場において実践可能な防災教育プログラムへと有機的につなげていくことを念頭に置いて計画している点にある。また,本申請研究は,児童生徒の『主体的に行動する態度』を育むうえで最も効果があると思われる防災教育に着目し,その短期的な教育効果のみならず,長期的な教育効果について詳細に検討することを目的としている。本申請研究の成果を具体的な防災教育プログラムへと展開できれば,その社会的な意義は極めておおきいといえる。」
1.応募状況
2019年度若手会員研究奨励賞は,2019年10月31日を申込締切日(当日消印有効)として募集されました。期日までに所定の応募書類を提出した応募者は2名でした。内訳は第1部門と第2部門でした。
2.選考委員会
応募者の提出した研究計画書と研究業績1点について,氏名を伏せた形でPDF化し,予備審査を実施しました。選考委員会の構成は,委員長・古屋健常任理事(学会活性・研究支援担当)の他,常任理事2名(市川優一郎氏・木村友昭氏),委員長指名による委員1名(軽部幸浩氏)の合計4名です。予備審査には応募者自身が申告した審査部門別に,機関誌編集委員会部門別編集委員1~2名が当たりました。
2019年3月,新型コロナウイルス感染拡大のためメール審議で開催された選考委員会において最終選考が行われ,受賞候補者1名が選考されました。なお,本来であれば年度末に開催される第5回常任理事会で審議される予定でしたが,その会議が急遽中止となったため,2020年5月31日に開催された平成20年度第1回常任理事会(メール審議)において審議され,承認されました。
3.評価基準
予備審査,最終選考ともに,応募書類は以下の4観点について「5:優れている-3:基準を満たしている-1:不十分である」の5段階で評価されました(20点満点)。
(1) 研究課題の学術的重要性・妥当性(「研究目的」欄など)
・学術的に見て,推進すべき重要な研究課題であるか。
・研究構想や研究目的が具体的かつ明確に示されているか。
・日本応用心理学会が支援するに相応しい研究上の意義が認められるか。
(2)研究計画・方法の妥当性(「研究計画・方法」欄など)
・研究目的を達成するため,研究計画は十分練られたものになっているか。
・研究倫理上の配慮が必要とされる研究では,適切な配慮がなされているか。
(3)研究課題の独創性及び革新性(「研究目的」「研究計画・方法」「研究の独創性・意義」欄)
・研究対象,研究手法やもたらされる研究成果等について,独創性や革新性が認められるか。
(4)研究遂行能力の適切性(添付業績など)
・これまでの研究業績等から見て,研究計画に対する高い遂行能力を有していると判断できるか。
4.選考経過
選考委員会では,学会活性・研究支援委員1名(選考委員長の代理),選考委員長を除く選考委員3名,および予備審査に当たった機関誌編集委員会部門別編集委員による観点別評価得点を参考に慎重審議いたしました。
その結果,最上位者1名については観点別評点の平均がすべて「3」以上で,また総合得点でも13.7点(選考委員だけの平均は14.8点)と高得点を得ていたことから,全員一致で受賞候補者とすることに決定しました。
2位の応募者については,観点別評点平均が「3」未満の評価を受けた観点について意見を交換しました。その上で,受賞の可否について慎重に審議した結果,全員一致で2位以下の応募者からの受賞は見送ることに決定いたしました。
5.講評
今年度の応募者数はわずか2件でした。年々減少する傾向が明らかとなり,いよいよ募集資格の拡張を検討することを決断しなければならない段階に来たと考えております。
選考経過にありますように,今年度は1名の方が受賞されることになりました。受賞された前田氏の研究については,審査委員全員からすべての観点について基準以上のレベルを満たしていると評価され,選考委員会でも全会一致で受賞が決定いたしました。特に「研究課題の学術的重要性・妥当性」の観点での評価が平均4.0と非常に高く,応用心理学が取り組むべき重要な研究テーマであるとの評価を受けています。代表的な意見として,ある審査員の講評を上げておきます。「日本人は自分よりもだれかを助ける、他者を優先する行動が美徳とされる風潮があり、『自分の命を守る』という行為や意識が育ちにくいともいえる。このため、自分の命を自分で守る方法や他者を助けるための方法に関する心理学的研究は、大変重要な研究といえる。」
一方,2位の応募者の方については,既に英文論文の業績もお持ちで「研究遂行能力の適切性」では評価平均4.0と非常に高く評価されました。しかし,「研究計画・方法の妥当性」に対する評価が審査委員の間で大きく分かれてしまい,評価平均を下げることになりました。特に,研究目的との整合性を問う意見があり,結果的に,残念ながら今回は受賞には至りませんでした。申請書の限られた文字数では詳細に研究を説明することは難しいと思いますが,審査委員会にはさまざまな部門の先生がいますので,応募の際には他の部門の先生にも理解しやすい申請書となるよう心がけて下さい。
最後に,これは毎回お願いしていることですが,受賞から漏れた方も決して4つの観点すべてについて基準を満たさなかったということはありません。一度応募して選ばれなかったとしても,改めて4つの観点から研究計画を練り上げて,チャンスがある限りチャレンジして頂きたいと思います。多くの会員の方の応募をお待ちしております。また,コロナ禍の中,心理学のように人を対象とする研究が必須な領域では,予定していた研究も実施できなくなる,あるいは計画変更を余儀なくされることも多いと思います。学会といたしましても,会員の皆様の研究活性のためにできることを探っていく所存です。