大工 泰裕
[所属]
大阪大学大学院 人間科学研究科 博士後期課程
[研究課題名]
社会的望ましさを排除した体罰容認度を測定する潜在的指標の開発
━ 紙筆版による教育現場での普及を目指して ━
[研究計画書より]
本研究が提案するSC-IATによる潜在的体罰容認の測定は,過去の体罰研究で見逃されてきた社会的望ましさの影響を排除できる点で独創性がある。また,潜在的体罰容認度のほうが体罰行動を正確に予測すると実験的に示すことで,潜在的体罰容認度の高い人々にフォローアップを行うことが体罰防止に有効であることが示される。このような検討は,意識調査が中心であった過去の体罰研究とは一線を画すものである。
また,研究2で開発するSC-IATの紙筆版は,体罰容認度を測定する現実の場面での応用可能性が高い。なぜなら,紙筆版を開発することによって,コンピュータ版では実質不可能な多人数に対する同時測定が可能になるとともに,体罰防止教育の効果測定として自己報告式の質問紙と同等コストで教育現場に導入することが可能になるからである。そのため,今後の教育現場での標準的な測定法となることが期待される。
選考経過
1.応募状況
2017年度若手会員研究奨励賞は,2017年8月27日に開催された総会において設置が承認され, 2017年10月31日を申込締切日(当日消印有効)として募集されました。期日までに所定の応募書類を提出した応募者は5名でした。内訳は第部門3件,第5部門件,第7部門件となっています。
2.選考委員会
応募者の提出した研究計画書と研究業績点について,氏名を伏せた形でPDF化し,予備審査を実施しました。予備審査には応募者自身が申告した審査部門別に,機関誌編集委員会部門別編集委員2名が当たりました。
2018年4月8日に開催された選考委員会において最終選考が行われ,受賞候補者1名が選考され,その結果は同日に開催された常任理事会において報告され,承認されました。
3.評価基準
予備審査,最終選考ともに,応募書類は以下の4観点について「5:優れている-3:基準を満たしている-1:不十分である」の5段階で評価されました。
- 研究課題の学術的重要性・妥当性(「研究目的」欄など)
- 学術的に見て,推進すべき重要な研究課題であるか。
- 研究構想や研究目的が具体的かつ明確に示されているか。
- 日本応用心理学会が支援するに相応しい研究上の意義が認められるか。
- 研究計画・方法の妥当性(「研究計画・方法」欄など)
- 研究目的を達成するため,研究計画は十分練られたものになっているか。
- 研究倫理上の配慮が必要とされる研究では,適切な配慮がなされているか。
- 研究課題の独創性及び革新性(「研究目的」「研究計画・方法」「研究の独創性・意義」欄)
- 研究対象,研究手法やもたらされる研究成果等について,独創性や革新性が認められるか。
- 研究遂行能力の適切性(添付業績など)
- これまでの研究業績等から見て,研究計画に対する高い遂行能力を有していると判断できるか。
4.選考経過
選考委員会では,まず今年度の受賞者数について3名を上限とすることが確認されました。その上で,予備審査に当たった機関誌編集委員会部門別編集委員2名と選考委員長を除く選考委員3名による観点別評価得点を参考に,上位者から順に受賞にふさわしいかどうか慎重審議いたしました。
その結果,最上位者名については観点別評点の平均がすべて「3」以上で,また総合得点でもそれぞれ15.8点と高得点を得ていたことから,全員一致で受賞候補者とすることに決定しました。
2位以下の応募者については,観点別評点平均が「3」未満の評価を受けた観点が複数あり,その点について意見を交換しました。その上で,受賞の可否について慎重に審議した結果,全員一致で2位以下の応募者からの受賞は見送ることに決定いたしました。
5.講評
今回も応募者数は5件に留まり,まだまだ広報の努力が不足していることを反省いたしました。応募していただいた会員の皆様にはあつく御礼申し上げます。
選考経過にありますように,最終的には上限3名より少ない名の方が受賞されることになりました。受賞された名の方については,審査者全員からすべての観点について基準以上のレベルを満たしていると評価され,選考委員会でも全会一致で受賞が決定いたしました。
一方,2位以下の応募者の方々については,複数の観点で評価平均が「3」未満となっていたため,受賞には至りませんでした。今回は応募者数も少なかったため,選考にもれた応募についても細かい意見交換がなされ,議論されました。
今回の審査で議論になった点のひとつは,応用心理学会として支援するに相応しい内容かどうかと言う問題でした。選考から漏れた応募の中には,研究計画はしっかりしており,業績から判断して充分な研究能力も認められるというケースもありました。しかし,選考での議論では,評価基準()の応用心理学研究としての意義が明確に伝わってこないという意見から,採用には至りませんでした。特に,第部門(原理・認知・感情)で応募を考えている方は,特にこの点について説得力のある論点を呈示する必要があると思います。
他方,それとは逆に,問題提起の着眼点は興味深く研究の意義は高く評価できても,その問題に相応しい研究計画が立てられ,結果が期待できるかどうかという点で不安があるというケースもありました。新しい問題に対してはさまざまなアプローチが可能ですが,思いつく限りの疑問を一挙に解決しようとしても難しいでしょう。大風呂敷を広げるより,じっくりと一歩一歩着実にアプローチすることを考えて,入念な研究計画を立てて進めていくことが必要だと思います。
残念ながら今回受賞から漏れた方も,このような点から,是非もう一度研究計画書を見直して頂いて,再チャレンジして下さい。お待ちしております。