生田目 光
[所属]
筑波大学大学院 人間総合科学研究科博士課程
[研究課題名]
Fear of happinessの影響におけるマインドフルネスの媒介効果
━ ポジティブ心理学第2の波に着目して ━
[審査部門]
第3部門(臨床・福祉・相談)
[研究計画書より]
従来の研究で扱われてきた概念のほとんどは,ポジティブかネガティブのいずれかに焦点を当てていた。しかし,本研究によって,今まで光が当てられることの少なかったアンビバレントな状態に焦点を当てることができ,今後の発展的な研究への道が拓かれると考えられる。また,Fear of happinessがウェルビーイングに及ぼす影響について,マインドフルネスという切り口で検討した研究は,日本だけでなく海外においても存在せず,独創性が高い。Fear of happinessの影響を緩衝する要因として,マインドフルネスが有効であることが示されれば,心理臨床の実践において,幸せを享受できない人々に対する介入へ示唆をもたらすなど,大きな意義をもつ。
選考経過
1.応募状況
2018年度若手会員研究奨励賞は,2018年10月31日を申込締切日(当日消印有効)として募集されました。期日までに所定の応募書類を提出した応募者は4名でした。内訳は第3部門2件,第4部門1件,第5部門1件となっています。
2.選考委員会
応募者の提出した研究計画書と研究業績1点について,氏名を伏せた形でPDF化し,予備審査を実施しました。選考委員会の構成は,委員長・古屋健常任理事(学会活性・研究支援担当)の他,常任理事2名(市川優一郎氏・木村友昭氏),委員長指名による委員1名(軽部幸浩氏)の合計4名です。予備審査には応募者自身が申告した審査部門別に,機関誌編集委員会部門別編集委員2名が当たりました。
2019年3月30日に開催された選考委員会において最終選考が行われ,受賞候補者1名が選考され,その結果は同日に開催された常任理事会において報告され,承認されました。
3.評価基準
予備審査,最終選考ともに,応募書類は以下の4観点について「5:優れている-3:基準を満たしている-1:不十分である」の5段階で評価されました(20点満点)。
- 研究課題の学術的重要性・妥当性(「研究目的」欄など)
- 学術的に見て,推進すべき重要な研究課題であるか。
- 研究構想や研究目的が具体的かつ明確に示されているか。
- 日本応用心理学会が支援するに相応しい研究上の意義が認められるか。
- 研究計画・方法の妥当性(「研究計画・方法」欄など)
- 研究目的を達成するため,研究計画は十分練られたものになっているか。
- 研究倫理上の配慮が必要とされる研究では,適切な配慮がなされているか。
- 研究課題の独創性及び革新性(「研究目的」「研究計画・方法」「研究の独創性・意義」欄)
- 研究対象,研究手法やもたらされる研究成果等について,独創性や革新性が認められるか。
- 研究遂行能力の適切性(添付業績など)
- これまでの研究業績等から見て,研究計画に対する高い遂行能力を有していると判断できるか。
4.選考経過
選考委員会では,まず今年度の受賞者数について3名を上限とすることが確認されました。その上で,学会活性・研究支援委員1名(選考委員長代理),選考委員長を除く選考委員3名,および予備審査に当たった機関誌編集委員会部門別編集委員2名の計6名による観点別評価得点を参考に,上位者から順に受賞にふさわしいかどうか慎重審議いたしました。
その結果,最上位者1名については観点別評点の平均がすべて「3」以上で,また総合得点でも14.3点と高得点を得ていたことから,全員一致で受賞候補者とすることに決定しました。
2位以下の応募者については,観点別評点平均が「3」未満の評価を受けた観点について意見を交換しました。その上で,受賞の可否について慎重に審議した結果,全員一致で2位以下の応募者からの受賞は見送ることに決定いたしました。
5.講評
今回も応募者数は4件に留まり,審査に当たった選考委員からもそろそろ募集資格の拡張を検討すべき段階に来たのではないかという意見を頂きました。開始当初から応募者数の拡大が課題でしたが,始まったばかりなのでしばらく様子を見守ることにしていました。しかし,既に3年度が経過し,やはり今後も大きな改善は見込めないことから,来年度の学会活性・研究支援委員会で検討することとしました。今年度応募していただいた会員の皆様にはあつく御礼申し上げます。
選考経過にありますように,今年度は最終的に1名の方が受賞されることになりました。受賞された生田目氏の研究については,審査委員全員からすべての観点について基準以上のレベルを満たしていると評価され,選考委員会でも全会一致で受賞が決定いたしました。
一方,2位以下の応募者の方々については,評価平均が「3」未満であった観点があったため,受賞には至りませんでした。今回は応募者数も少なく,選考にもれた応募についても意見交換がなされました。
その中で,特に次点となった応募者については,そのテーマが応用心理学の研究に相応しく,かつその社会的意義も大きいとして複数の審査委員から非常に高い評価を受けました。しかし,残念ながら「研究計画」の最も重要な部分で説明が不十分であるとの指摘があり,協議の結果,受賞とはなりませんでした。おそらく,研究費申請書類の書き方に不慣れであったためと思われます。本賞の応募書類のフォーマットは,科学研究費を申請する時に求められる書類としては非常に短いものです。これからの学究生活の中では,限られた文字数の中で自分の研究をアピールすることも重要なスキルとなってきます。是非,文章を練り直して,再チャレンジしていただきたいと思います。
今回の応募のうち2件が新しい心理尺度の開発を主な研究内容とするものでした。新たな研究対象には新たな測定道具が必要であり,心理尺度の開発は重要な研究テーマです。とはいえ,尺度開発が研究の最終目標ということではありません。心理尺度開発の研究計画を審査する場合,研究計画の実現可能性だけではなく,その対象を測定することの研究上の意義や,尺度開発後の研究の展望が重視されます。特に,応用心理学研究としての意義,あるいは開発した尺度の有用性は重要です。今回の2件の応募については,その独創性は評価されたものの,これらの点で説明不足と判断されました。
このように,残念ながら受賞から漏れた方についても,決して4つの観点すべてについて基準を満たしていないということではありません。一度応募して選ばれなかったとしても,改めて4つの観点から研究計画を再検討し,文章を磨き上げた上で,再チャレンジして頂きたいと思います。多くの会員の方の応募をお待ちしております。