横井川 美佳
[所属]
京都大学 大学院人間・環境学研究科 博士後期課程 2年
[研究課題名]
発達に支援が必要な子どもたちとのポジティブな経験の重要性
研究概要(「研究計画書」より,一部略)
本研究では,保護者や支援者が,発達に支援が必要な子どもたちと関わる中でポジティブな経験をどのように感じ,どのように受けとめているのかをアンケート調査によって把握し,子育ておよび支援の「経験」の内容と,職種,所属施設の種別,関わりの形態などの属性との関連性を検討する。それによって,(1)発達に支援が必要な子どもたちを支える上で重要となる「経験」内容の要素を解明する。また,(2)支援活動を担う人材を育成するためのプログラムの作成において重要となる内容を新たに提起することを目的とする。
1.応募状況
2021年度若手会員研究奨励賞は,2021年11月30日を申込締切日(当日消印有効)として募集されました。期日までに所定の応募書類を提出した応募者は2名でした。それらは審査部門でいえば第2部門と第7部門に該当する内容でした。
2.選考委員会
応募者の提出した研究計画書と研究業績1点をPDF化し,審査を実施しました。選考委員会の構成は,委員長である田中堅一郎常任理事(学会活性・研究支援担当)の他,常任理事2名(上瀬由美子氏・木村友昭氏),委員長指名による委員2名(青木みのり氏・軽部幸浩氏)の合計5名でした。審査委員には応募者自身が申告した審査部門に該当する第2部門,第7部門に1名ずつの委員が含まれました。
新型コロナウイルス感染拡大のため,2021年1月13日から1月28日にかけてメール審議で開催された選考委員会において選考が行われ,応募者についての審査の結果,受賞候補者2名が受賞内定となりました。しかしながら,この審査後,受賞内定となった応募者の1人から応募を辞退したいという旨の連絡が選考委員長に来ました。また当該応募者は学会事務局に審査辞退の依頼を申し出たため,委員長が各選考委員にこの旨を伝え,最終的に今回の受賞者は審査辞退された1名を除いた1名が受賞候補者として推薦することが選考委員全員に了承されました。その後,2021年度3月26日(土)に開催された第6回常任理事会で審議され,承認されました。
3.評価基準
応募書類は以下の4つの観点について「5:優れている-3:基準を満たしている-1:不十分である」の5段階で評価されました(20点満点)。
(1) 研究課題の学術的重要性・妥当性(「研究目的」欄など)
・学術的に見て,将来の発展が期待できる推進すべき重要な研究課題であるか。
・研究構想や研究目的が具体的かつ明確に示されているか。
・日本応用心理学会が支援するに相応しい研究上の意義が認められるか。
(2) 研究計画・方法の妥当性(「研究計画・方法」欄など)
・研究目的を達成するため,研究計画は十分練られたものになっているか。
・研究倫理上の配慮が必要とされる研究では,適切な配慮がなされているか。
(3) 研究課題の独創性及び革新性(「研究目的」「研究計画・方法」「研究の独創性・意義」欄)
・研究対象,研究手法やもたらされる研究成果等について,独創性や革新性が認められるか。
(4) 研究遂行能力の適切性(添付業績など)
・これまでの研究業績等から見て,研究計画に対する高い遂行能力を有していると判断できるか。
4.選考経過
選考委員会では,学会活性・研究支援担当常任理事と選考委員4名で審査にあたりました。選考委員4名は機関誌編集委員会担当常任理事,学会賞選考担当常任理事,および選考委員長が指名した2名の審査委員で構成されました。審査は4つの観点別評価を中心に行われました。
その結果,総合評点で1位の応募者については,観点別評点の平均がすべて「3」以上で,また総合得点でも14.8点と高得点を得ていたことから,全員一致で受賞候補者とすることに決定しました。
総合評点で2位の応募者については,観点別評点の総合得点が13.0となり,総合評価を「不可」と判定された委員が1人おられましたが,それ以外の選考委員の総合評価は「合格」となりました。
この時点では選考委員会では応募者2名の受賞が相応しいと判断されました。しかしながらその後,2位の応募者が応募取り下げを申し出ました。その応募者の提出された申請書はすでに審査を終了しており,遡及しての応募取り下げは無理だと(委員長が)判断し,連絡者にその旨を伝えました。その後,その応募者から学会事務局宛に「選考審査の辞退」が3月11日付で申し出があったため,委員長が各選考委員にこの旨を報告し,2位の応募者の受賞の可否について改めて審議し,審査員全員一致で2位の応募の受賞は見送ることにし,最終的に今回の受賞者は審査辞退された1名を除いた1名を受賞候補者として推薦することが了承されました。その後,常任理事会に対して1名(横井川美佳氏)を受賞者として推薦し,もう1人の応募は「受賞辞退」として対応をお願いし,常任理事会で審議の結果,上記の通り承認されました。その後,横井川氏本人に2021年度若手会員研究奨励賞を受賞されたことを連絡し,ご本人が受賞を承諾されました。
5.講評
今年度は応募資格を改定して応募範囲を広げましたが,応募者数はわずか2件でした。過去2年間受賞者が出ていなかったことを考えると,応募者なし・受賞者なしという事態は避けることができましたが,応募者が少ないことには変わりがありません。今後は応募資格の改定による応募範囲の拡張について,改めて会員の皆様へのアナウンスが必要かもしれません。
選考経過にありますように,今年度は1名の方が受賞されることになりました。受賞された横井川氏の研究については,審査委員全員からすべての観点について基準以上のレベルを満たしていると評価され,選考委員会でも全会一致で受賞が決定いたしました。特に「研究課題の独創性及び革新性」と「研究遂行能力の適切性」の観点での評価が平均3.8と高く,応用心理学が取り組むべき重要な研究テーマであるとの評価を受けています。代表的な意見として,ある審査員の講評を上げておきます:「発達につまずきを抱える子どもたちへの支援は今日の大きな課題であり,その意味で本研究の社会的意義は大きい。子どもへの関わりにおいて,保護者や支援者がポジティブな経験をすることは,関わる側のモチベーションを賦活し,よりよい支援に結び付くことが予想される。これまで,保護者や支援者の困り感が研究対象とされることが多かった中で,ポジティブな経験に注目した本研究の問は大変独創的であり,これまでにない知見をもたらすことが期待される。」
一方,2位の応募者の方については,審査委員間の評価が分かれたものの,研究対象がユニークだったことと,「研究課題の独創性及び革新性」では評価平均3.6とそれなりに高く評価されました。結果的には自ら審査辞退を申し出られたため,残念ながら今回は受賞には至りませんでした。
最後に,会員の皆さんにお願いですが,一度応募して選ばれなかったとしても,改めて4つの観点から研究計画を練り直してチャンスがある限りチャレンジして頂きたいと思います。多くの会員の方の応募をお待ちしております。また,COVID-19の影響が続く中,心理学のように人を対象とする研究が必須な領域では,予定していた研究も実施できなくなる,あるいは計画変更を余儀なくされることもあると思います。学会といたしましても,会員の皆様の研究活性のためにできることを探っていく所存です。