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大会企画 シンポジウム

グローバル人材の育成  大学での留学制度の活用からグローバル・コンピテンシーへの発展

日時:8月24日(土) 13:30 ~ 15:30
場所:日本大学商学部 1303教室

企   画:日本応用心理学会第86回大会委員会
司 会 者:外島 裕 氏(大会事務局長)
話題提供者:眞⾕ 国光 氏(早稲⽥⼤学総⻑室/国際部)
話題提供者:橋上 愛⼦ 氏(東京海上⽇動メディカルサービス株式会社)
話題提供者:Mr. Bryan Sherman(Gramercy Engagement Group, Inc.)
指定討論者:井上 孝代 氏(明治学院⼤学)
⽩⽊ 三秀 氏(早稲⽥⼤学政治経済学術院)

【企画趣旨】
 国際化がきわめて速い速度で進展し,多⽂化共⽣の社会のなかでの適切な⾏動が課題となっています。特に将来このような,いわゆるグローバル社会において活躍が期待される⼤学⽣の育成⽀援については,各⼤学では留学制度の充実と活⽤が図られています。⼤学⽣⾃⾝も,留学の機会を⾃⼰の成⻑の機会として積極的に活かそうとしています。この留学経験を意義のある体験の機会とするためには,多くの⽀援の⼯夫が必要です。さらに,⼤学から社会での活躍につながっていくためには,グローバル経営における⼈材に必要な能⼒要件・⾏動要件を理解しておく必要があります。従来からの仕事への適性や能⼒開発の視点にとどまらず,たとえばグローバル・リーダーシップへの成⻑が必要となるでしょう。本シンポジウムでは,⼤学での留学制度のありかた,⼤学⽣の留学を⽀援する⾃⼰理解のレディネステストとフォロー,そして国際⼈事における⼈材の必要要件などを話題として,参加の諸先⽣とともに話し合いを深めたいと企画しています。

【話題提供】

「近年の⼤学における留学の動向および留学による学⽣の変容  早稲⽥⼤学の事例より
眞⾕ 国光(早稲⽥⼤学総⻑室/国際部)

(話題提供の要旨)
 昨今,⽇本において国際性を備えた⼈材の育成が喫緊の課題となっている。⽂部科学省補助⾦事業においても,「⼤学の世界展開⼒強化事業」(2011 年度開始)「経済社会の発展をけん引するグローバル⼈材育成⽀援」(2012 年度開始)「スーパーグローバル⼤学創成⽀援」(2014 年度開始)など⼤型の補助⾦⽀援策が⽮継ぎ早に実施される等,国策としても,「グローバル⼈材」の育成が急務であることが理解される。これらの追い⾵により,近年⽇本全体で海外留学者数が⼤きく増加する結果をもたらした。この動向により,海外留学の量的な拡⼤とともに,その質的な変化がもたらされた。すなわち,これまで主流であった学位取得型留学から,1年間や半年間の交換留学,そして夏休みなどを利⽤した短期留学等⽐較的短くより参加しやすい留学が増加したという特徴を指摘できる。こうした背景により,近年の傾向としては海外に不慣れな学⽣も,数多く留学に⾏く傾向が強くなってきている。そこで重要なのは,単に海外に数多く学⽣を送り出すだけではなく,きちんとその学習成果を把握して評価し,また⼼⾝ともに健康な留学⽣活を送れるような学⽣⽀援策である。これらに対して,⼤学はどのような具体的な⽅策を採ることができるだろうか。早稲⽥⼤学では,海外留学の教育的アセスメントを⾏うため,留学 .果測定と .う教育学の観点から構築された調査を実施している。また,海外留学に対しての個⼈のメンタルヘルスケアを促すためのSRSA(Scale of Readiness for Study Abroad)という臨床⼼理学の観点から開発された調査をあわせて実施している。これらの実施により,海外留学の質的評価・対応を⾏っている。当発表は,これら両調査の具体的な実施概要を共有する。留学効果測定に関しては,実際のデータから⾒えてくる海外留学の効果に関する分析結果を⼀部ご紹介する。また,SRSA に関しては,実際にこの検査により学⽣および運営側の教職員に対してもたらされる効果についてご紹介する。

「⼤学のグローバル化を⽀える留学のリスク管理と留学の成果  「留学⽣メンタルヘルス⽀援プログラム」から「グローバルキャリア開発プログラム」への展望
橋上 愛⼦(臨床⼼理⼠・公認⼼理師)
(東京海上⽇動メディカルサービス株式会社健康プロモーション事業部EAP室)

(話題提供の要旨)
 ⽇本におけるグローバル戦略(GGJ,SGU等)は近年加速傾向にあり,⽇本の⾼等教育の国際化は著しい。⽇本学⽣⽀援機構の調査によれば,2017 年5 ⽉現在の留学⽣数は26 万7042 ⼈となり,前年⽐で約2 万8000⼈の増加数が報告されるなど国の期待通りの実績は挙げられてきているが,⼀⽅で派遣留学⽣のメンタル不調問題も顕在化しつつある。学校側としては,事例化した学⽣の事後対応に留まらず,留学前の危機管理や⼼理教育(ストレスマネジメント等)を⾏うなどのサポート体制作りが急務である。弊社が早稲⽥⼤学と共同で開発した留学準備教育スケール(Scale of Readiness for Study Abroad,以下「SRSA」)は,学⽣が留学前に⾃分の性格傾向(強み・課題)や留学適応⼒を把握し,渡航前の⼼構えと現地での不適応を未然に防ぐことを⽬的としたセルフケアツールである。早稲⽥⼤学では,2017 年度より本格運⽤を始めており,留学に⾏く学⽣に対して留学の前後に受検するよう促している。⼀⽅,学校側は,学⽣の留学適応⼒をもとに留学先の事前検討や気がかりな学⽣に対して事前に個⼈⾯談等の対策を打つことによって,学⽣に対する安全配慮義務を遵守し,学内のリスク管理に繋げられるという特⻑がある。最近では⽂科省から「⽇本⼈の海外留学の効果測定」等,留学成果の可視化を求められており,学校側は留学プログラムのPDCA サイクルを適切に回し,社会でグローバルに活躍できる学⽣の輩出に益々寄与していくべき局⾯を迎えている。学⽣は,留学という挑戦を経て,語学⼒の向上といった教育的側⾯の成⻑が期待できると共に,様々な経験を通して⼈間的に⼤きく成⻑できる貴重な体験をも得る。その経験を⾃⾝の「強み」として可視化し,次に続く就職活動に活かすために,学校側や企業は,留学後の定期的なフォローアップ介⼊を⾏い,留学で⾝につけたグローバルスキル(コンピテンシー)を維持させるプログラムの開発が必要ではないだろうか。本発表では,学校側のサポート体制(『留学⽣メンタルヘルス⽀援プログラム』)の現状と,企業における『グローバルリーダー育成』を⾒据えた,学⽣の『グローバルキャリア開発プログラム』の展望についても考察したい。

「グローバル経営時代の⼈材に必要な要件,育成について」
Bryan Sherman(ブライアン・シャーマン)
(グラマシー エンゲージメント グループ株式会社 代表取締役)

(話題提供の要旨)
 グローバリゼーション,デジタル化,刻々と進む⼈⼝減少。⼈⽣100 年時代の到来,⻑く続いた終⾝雇⽤制度の終焉。仕事を取り巻く環境は急速に変化し混沌としている。その変化に適応できる者とできない者との間には深い溝ができつつあり,働くすべての⼈々に希望よりも不安をもたらしている。そんな中,ただひとつ断⾔できることは,どんなにテクノロジーが進んだ時代であっても,⼈間は機械やA.I.に屈せず,仕事とは本来我々の健全な精神と⾁体の源となるべきであるということを思い出さなくてはならない。そして,グローバル時代を⽀えるトップ⼈材は次の三つの特徴を体現するために育成されるべきである。
1.⽣涯学習への意欲や物事に好奇⼼を持ち続けること。
2.⾃⼰満⾜を避け,常に挑戦すること。
3.密接で有意義な対⼈関係を維持すること。
上記に述べた特性と⽇本におけるグローバル社員育成の現状について解説,また学⽣時代の教育と仕事を通じ培われる経験が社員のグローバル育成にどのような⼿助けをするかについて提⾔する予定である。

Globalization. Digitalization. Radical decrease in Japan’s population. 100 year life and the end of implied lifetime employment in Japan. The world of work is changing fast. But one thing is clear: to retain our mental agility and vitality, our work should be the source of invigoration and inspiration. Therefore, business should support the needs of humanity (rather than humanity succumbing to the whims of the business machine?s drive for productivity and efficiency from automation.). In a global era, top employees should be nurtured to embody the following characteristics: (1) to remain curious with a life-long learner?s mind, (2) to avoid complacency and take on challenges, and (3) to retain close and meaningful interpersonal relations. In this talk, Sherman will review the necessity for these characteristics, provide an assessment of the current state of affairs in Japan particularly and provide some suggestions for how academic education and practical work life experience should nurture the development of employees.

【指定討論】

「⾃分らしくキャリアをデザインすること  「⽂化の懸け橋」と「幸福な⽣き⽅」
井上 孝代(明治学院⼤学)

(指定討論の要旨)
 「留学」の⽬的⾃体が⼤きく変化してきた今⽇,改めてグローバル⼈材の育成にとって留学の意義の論議は喫緊の課題であろう。本シンポジウムにおいて,(1)留学制度の多様なあり⽅に対応した学⽣⽀援対策と評価(眞⾕報告),(2)留学⽣の特性やグローバル化に即した⽀援内容の予防的・教育的可能性と展望(橋上報告),(3)留学を卒業後の職業⼈としてのキャリア発達にどうつなげるか(Sherman 報告)の話題提供からは,若い時代の留学という最⼤の異⽂化体験が⾃⼰理解・⾃⼰肯定感を得るチャンスとして活かされ,⽣涯のキャリア発達の起点ともなりうること,そしてその後のグローバル社会での有⽤な⼈材として育ちうるという⼀貫した強いメッセージが伝わっってくる。すなわち留学制度の活⽤と「グローバル⼈材」の育成,ひいてはグローバル・コンピテンシーの発展との強い結びつきが主張されている。指定討論では,上記のメッセージに⼤いに共感しつつ,この「⼈材」という⾔葉に⽬を向けたい。「⼈材」とは「才能のある,役に⽴つ⼈」とい意味である。「役に⽴つ」とは何に対して役にたつのか。「経営に役に⽴つ」といった側⾯だけでなく,「本⼈にとっても役に⽴つ」という視点,つまり留学⽣の⽣涯キャリア発達の⽀援という観点の重要性を指摘したい。この場合の「キャリア」は「職業」だけでなく,「ライフキャリア」「ライフコース(⼈⽣)」を意味する。グローバルな時代はさまざまな価値が多様化する多元的社会である。そういう時代にこそ,「いかに⾃分らしくキャリアをデザインできるか」が問われよう。留学制度がそのような個⼈の⽣涯キャリア發達の視点で活⽤されること,そしてそのことが願わくば「⽂化の架け橋」ともなるような社会的役割をもち,社会貢献のできる⼈材の育成につながることも期待したい。それがポジティブ⼼理学で⾔われる「幸福な⽣き⽅」の要件をも満たすものと考えるからである。

「「グローバル⼈材」や「グローバル・コンピテンシー」とは何か
⽩⽊ 三秀(早稲⽥⼤学政治経済学術院)

(指定討論の要旨)
 「グローバル⼈材」や「グローバル・コンピテンシー」とは何かについては諸説あり,これまでにも様々なリサーチも報告されている。本シンポジウムの特徴はその中でも特に,⼤学での留学とグローバル・コンピテンシーとの関連に的を絞り,議論を⾏っているところにある。グローバル・コンピテンシーは価値観や性格のようなstatic な要素と後天的なdynamic な要素から成っていると考えられるが,留学は基本的に後者に影響を与えるが,若い⼈の場合には前者にも⼤きく影響するものと考えられる。このため,我々の⽇本⼈海外派遣者のデータで⾒ても,若い頃の海外経験がシニア・マネジャーになってからのパフォーマンスに⼤きな影響を与えることが⽰唆されている。また,留学による広い視点の必要性の認識・体験は,様々な知的関⼼を引き出す⼤きな刺激になり,態度変容と伴うことにより,後ほどの⼈⽣を豊かにするばかりでなく,キャリアに⼤きな効果を持つものと考えられる。若い⼈材の海外でのパフォーマンスを規定する要因について考察すると,留学が語学習得というdynamicコンピテンシーの獲得を超えて,態度変容を通じて,後ほどの海外での活躍に⼤きな⼒になることを確認したい。

【紹介】

眞⾕ 国光(まみや くにみつ)
早稲⽥⼤学総⻑室調査役兼国際部調査役。早稲⽥⼤学⼤学院アジア太平洋研究科博⼠後期課程在籍中。早稲⽥⼤学留学センター,国際部国際課等を経験。専⾨領域は,⽐較国際教育学。眞⾕国光「⽇本⼈学⽣のアジア留学経験によるアジア・シティズンシップ育成に関する考察」『⾼等教育研究』⽇本⾼等教育学会 2019 年5 ⽉ 第22 号 他。

橋上 愛⼦(はしがみ あいこ)
聖⼼⼥⼦⼤学⽂学部卒業後,⺠間企業在職中に東京成徳⼤学⼤学院⼼理学研究科臨床⼼理学専攻修了。国⽴精神・神経医療センター精神保健研究所にて研究⽣,都内スクールカウンセラーを経て現職。専⾨領域は留学⽣⽀援,産業⼼理学。橋上愛⼦井上孝代, 外島裕,他. “⼤学⽣向け留学準備教育スケールの開発の試みⅡ―新柔軟性尺度の作成―”. ⽇本応⽤⼼理学会⼤会発表論⽂集83 巻. 北海道, 2016-09-01/02. ⽇本応⽤⼼理学会, pp.54-54.他。

Bryan Sherman (ブライアン・シャーマン)
代表取締役。グラマシー エンゲージメント グループ株式会社(Gramercy Engagement Group, Inc.)。⽶国ニューヨーク市にて⽇系企業(NY・LA)を対象に⼈事コンサルタントとして従事。その後⽶国住商情報システム⼈事総務部⻑として在⽶⽇系企業が抱える⼈事の現場を内と外の視点で⽀える。来⽇後株式会社ファーストリテイリングでのグローバル⼈事業務に参画。2010 年グラマシーエングージメントグループ株式会社設⽴。⽇本企業の⼈事のグローバル化をサポートするコンサルタントとして活躍中。⽶国ニューヨーク州出⾝,⽶国Williams College 卒。早稲⽥⼤学トランスナショナルHRM 研究所 招聘研究員。

井上 孝代(いのうえ たかよ)
明治学院⼤学名誉教授。九州⼤学⼤学院⽂学研究科博⼠課程⼼理学専攻単位満期退学。博⼠(教育⼼理学)。東京外国語⼤学留学⽣⽇本語教育センター教授を経て,1998 年より明治学院⼤学⼼理学部教授。元明治学院⼤学副学⻑。⽇本応⽤⼼理学会名誉会員。専⾨領域はカウンセリング⼼理学。マクロ・カウンセリングを提唱。『コンフリクト解決のカウンセリング−マクロ・カウンセリングの⽴場から−』(編著,2012,⾵間書房),『エンパワーメントのカウンセリング 共⽣的社会⽀援の基礎』(編著,2007,川島書店)他。

⽩⽊ 三秀(しらき みつひで)
早稲⽥⼤学 政治経済学術院教授。早稲⽥⼤学政治経済学部卒業,同⼤学院経済学研究科博⼠後期課程修了。博⼠(経済学)。国⼠舘⼤学政経学部助教授・教授等を経て,1999 年より現職。専⾨は労働政策,国際⼈的資源管理。現在,早稲⽥⼤学トランスナショナルHRM 研究所所⻑,国際ビジネス研究学会会⻑,⽇本労務学会理事(元会⻑)を兼任。最近の主な著作に『国際⼈的資源管理の⽐較分析』(単著,有斐閣,2006 年),『グローバル・マネジャーの育成と評価』(編著,早稲⽥⼤学出版部,2014 年),『⼈的資源管理の⼒』(編著,⽂眞堂,2018 年)等がある。

外島 裕(としま ゆたか)
⽇本⼤学商学部経営学科・⼤学院商学研究科経営学専攻教授。⽇本⼤学⼤学院⽂学研究科⼼理学専攻修⼠課程修了。⽇本化薬(株),(株)⽇本能率協会マネジメントセンター勤務を経て,1997 年より現職。⽇本応⽤⼼理学会常任理事。⽇本応⽤⼼理学会第86 回⼤会委員⻑。専⾨領域は産業・組織⼼理学。外島裕監修(2019)『産業・組織⼼理学エッセンシャルズ(第4 版)』ナカニシヤ出版。外島裕(2019)「⾏動開発における⾃⼰覚知の深化の過程に関する研究」『商学集志』88(4),pp.179−220.他。