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2001年3月1日発刊

日本応用心理学会ニュースレター No.3

   コミュニケーションの広場

目   次
学会賞・大会長として ………………………………………………………… 細江 達郎
変動する社会と応用心理学の役割 …………………………………………… 恩田  彰
変動する社会と応用心理学の役割 ~協調的な社会を築けるか~ ……… 大坊 郁夫
本年度学会賞・奨励賞の受賞について ……………………………………… 正田  亘
セビリア声明について ………………………………………………………… 中川 作一
学会ホームページの作成について …………………………………………… 浮谷 秀一
日本応用心理学会第67回大会について …………………………………… 坂野 登
名誉会員の御推挙について事務局より


学会長・大会長として

細江 達郎

会員の皆様,新しい年と世紀を,それぞれの思いでお迎えのことと思います。本会の伝統でもあります,大会当番校の責任者が学会長にという本会の会則により,13年度岩手県立大学での大会までの会長を務めさせていただいております。白梅短期大学の荻野事務局長はじめ事務局の皆様,常任理事等役員の皆様のご支援で無事任期を終えることができればと思っております。会員の皆様のご協力を一層お願い申し上げます。
すでに会則改正などでご存知のことと思いますが,今年度より役員名称も運営委員から理事・常任理事等に改定されました。伝統ある本学会の良いところは伸ばしながら,時代に即応していく必要があると思います。心理学への関心は,学生のみならず社会的にも増進しており,特に心理学の応用への期侍は大きいようです。地方の公立大学の性格上,教育分野はもとより医療,福祉,防災,警察等の対人的なサ-ビスの関係者と仕事をともにすることが多いのですが,それぞれの分野の人は心理学の知識を持っているとともに期待が大きいようです。しかし,こうした期待に現在心理学界が十分応えているとはいえません。早くから心理学の応用分野を担ってきた本学会の役割は―層大きくなるものと思われます。本学会は以前から心理学の関連分野の研究者も会員としており,このことは学会の活性化や応用の進展に関して大いに寄与してきました。しかし,一般の人々の心理学の関心が増してきますと,心理学の対象分野の広さ,その方法論の多様性が別な問題を引き起こしてきます。学問論をいまさら述べるまでもありませんが,すくなくともその学問分野の体系的な視点は必要なものとされています。心理学への一般の人の関心がややもすると,部分的,トピック的になりかねません。今後会員の増加に伴いながら,こうしたバランスにどのような舵取りをしていくか学会としても苦慮するところと思います。
さて,岩手県立大学での第66回大会のことですが,9月8日(土),9日(日)に盛岡市郊外の滝沢村の自然に囲まれた大学キャンパスで開催します。詳細は1月末にお送りした第1号通信をご参照ください。岩手での大会は16年振りであり,季節もよいと思いますので,学会参加はもちろん北東北の観光の拠点でもある盛岡にぜひお越しください。大会企画は準備中でありますが,異文化研究,しろうと理論,労働の心理,お金の心理学など多彩な研究を次々と発表している英国UCLのA. F. Furnham 教授の特別講演を予定しております。多くの会員の皆様のご参加,ご発表を準備委員一同心からお待ちしております。
(岩手県立大学)

変動する社会と応用心理学の役割

恩田 彰

時代の推移と共に変動する社会に対応して,人間の生活のしかたや人間観や世界観が変わり,それに伴って問題が多種多様に生ずるようになった。そこでこれらの問題を解決し,処理してゆかなければならなくなった。このような時代の要請に応じて,応用心理学の課題と役割について,考察してみたいと思う。
(1)創造的経営と研究開発 私は科学技術者の創造性について,40年前から研究してきたが,現在若い人たちと共に創造的経営と研究開発の研究を行なっている。研究開発では,個人および集団や組織における創造性開発が重要になるが,創造的リーダーシップ,創造的組織や創造的経営の研究が大切である。また創造性開発の研究をするようになって,教育科学とはちがった研究科学に興味を持つようになった。研究科学では,科学研究の心理学,特に発明と発見,間題解決,研究開発,研究経営の研究が重要になると思う。
(2)問題解決の研究 問題解決が学習および研究や臨床活動において重視されている。問題解決のモデルには問題志向モデルと解決志向モデルとがある。ふつう問題解決では,問題を自覚し,これを明確化することで,解決の仮説が導き出されるやり方をとる。すなわち問題志向モデルに相当するものが多い。しかし心理療法の解決志向療法では,問題の解決ではなく,直接に解決に焦点を当てるのである。また問題解決は,日常問題の解決や研究開発のみならず,地域の問題や地域紛争や国際関係の問題解決にも役立つのである。
(3)倫理心理の問題 今世紀はIT(情報技術)の革命の世紀といわれ,情報が社会を動かすようになったが,他方それに伴なう犯罪やトラブルまたはインターネット依存症も生じてくる傾向も出てきた。そこでその問題解決や防止の対策が必要になると共に,それを使う人の倫理基準を明確にし,周知せしめる必要が出てきた。また最近臨床活動の現場において,臨床家とクライエントの関係において,トラブルが生じ,中には心的障害を与えることも起こっている。その点臨床家の活動において倫理が問われている。従って倫理基準の確立,倫理教育,倫理心理の研究など応用心理学の役割は大きいと思う。

変動する社会と応用心理学の役割 ~協調的な社会を築けるか~

大坊 郁夫

近年,青少年の残忍な犯罪,周りを配慮できない自己中心的な,反・非社会的な行動の増加は著しい(暴走行為,携帯電話の濫用,車内での化粧,対面を回避し,電子コミュニケーション手段への耽溺等枚挙にいとまがない)。統計的な数値的な問題にとどまらない,重大な変化が起こりつつあると危慎している。われわれは,「なぜ殺人が悪いのか」,「他人が困る姿を見るのは楽しい」というセリフに明解に答えられるであろうか。もちろん,誰もが反・非社会的な行動をとる訳ではないが,その類の行動をする者が増えていることによる社会的な波及性が問題である。つまり,この種の情報に触れるにしたがい,希有さ・重篤さへの馴化が生じ,われわれの共同的な社会意識自体が変質し,システムとしての自律性すら無気力に損なわれていきかねない(意識の汚染化とも言えよう)。この種の社会現象は,あまりに日常的であるが故に,要素的な視点からだけでは,単発的な関心の高揚に終わってしまう。研究者の最も不得意とする,発想を異にする視点からの交叉的な研究と実践が必要である。さらに,科学的研究は決して中性的なのではなく,社会的価値を踏まえていることを改めて自覚する必要があろう。
「応用」は,現実を鋭敏に,多面的に捉え,その成果を段階的であれ,実践化(工夫)する一連の過程を意味することと理解している。したがって,基礎的な実証性を前提としながら,現実の社会のウエルネスを高めるために様々な分野と連携しながら解決し,将来プランを築けねばならない。対人関係の観点からすると,自己概念の矯小化,対人関係スキルの低下(退化),「社会」の持つ協同性意識の空洞化(むしろ「社会」単位の断片化と脱社会性とも言える)について,継続的に心理学のみならず,様々な分野(研究者とは限らない)間でつき合わせしていく必要がある。
(大阪大学大学院教授)

本年度学会賞・奨励賞の受賞について

正田 亘

平成12年度の学会賞・奨励賞は次の方々に決定し,67回大会の総会で賞状と賞金が授与されました。研究内容・受賞理由は以下の通りです。
〔学会賞〕内藤哲雄氏(信州大学人文学部教授):『PAC分析入門』(単著)ナカニシヤ出版,1997年。内藤氏の開発したPAC(Personal Attitude Construct)分析は,態度やイメージの個人構造を測定し,分析する技法であり,今日,社会心理学,臨床心理学,教育心理学等で幅広く利用されていて,その価値は極めて高い。
〔学会賞〕蓮花一己氏(帝塚山大学人文学部教授):向井・蓮花編著『現代社会の産業心理学』福村出版,1999年。その他,論文多数。蓮花氏は交通制度,運用,教育に関する外国との交流,共同研究の推進を始め,交通教育等の地域活動も活発に展開しており,交通安全に対する社会的貢献度が実に大である。
〔奨励賞〕山本 寛氏(千葉商科大学経営学部助教授)『昇進の研究』(単著)創成社, 2000年。その他,「応用心理学研究」に掲載の論文多数。山本氏は「応用心理学研究」に数多<の研究論文を発表されている。今回,博士論文をまとめた『昇進の研究』は,従業員の昇進の遅れを意味するキャリア・プラトー原因とそれが従業員に及ぽす影響について考察した異色ある研究である。 (常磐大学教授)

セビリア声明について

中川 作一

日本応用心理学会は2000年9月9日第六十七回大会の総会で「暴力についてのセビリア声明」(1986)を承認した。この声明は,1986 年の国連・国際平和年の行事の―環として,ユネスコがスペインのセビリアで開催した国際会議に,五大陸十二ヶ国から参加した心理学,社会学,動物行動学,生理学などの国際的な専門家たちのチームによって起草された科学者らしい“平和主義”の提言である。
「暴力についてのセビリア声明」は,われわれの生物組織のなかには,戦争放棄およびその他の制度的暴力の廃絶を妨げるような,乗り越えることのできない壁はまったくない,「戦争は生物学的必然ではい」「戦争はひとつの社会的発明である,したがって,それに代わる平和も発明できる」と明言している。それは,「戦争は人間性に内在するものであるから,なくすことはできない」という生物学的悲観論をはっきり否定し,若い世代に平和創造への展望と確信を与える目的でまとめられた科学者のメッセージである。
いま,国連は21世紀を迎えユネスコを中心にして,戦争の文化から平和の文化への移行をめざし,「行動計画」を立て,さまざまな運動を展開しているが,この「平和の文化」という言葉は,冷戦構造の崩壊にともなって,国連の目的である戦争の廃絶がはじめて達成可能な課題になった時期に,1989年,ユネスコ主催による「人の心の中の平和国際会議」が打ち出した概念である。この国際会議がその討論の場に提示された「セビリア声明」の戦争観・基本的人間観に啓発され,「平和の文化」の創造に確信をもった意義は大きい。同時に,討論の中で,「暴力と闘争とをはっきり区別する必要」があること,「セビリア声明は人権と公正のための闘争,抑圧に反対する闘争の合法性をいささかも暖昧にすべきではない」ということが明らかにされた事実も忘れられない。なお,この年ユネスコはセビリア声明を採択している。
(法政大学名誉教授)

日本応用心理学会ホームページについて

浮谷 秀一

平成12年9月5日に日本応用心理学会ホームページの試験運用を開始しました。その後更新し現在にいたっています。現在の目次は,『学会の紹介』『大会案内』『応用心理学研究(機関誌)』『二ュースレター』『認定「応用心理士」』となっています。
それぞれの内容は次のようになっています。『学会の紹介』には学会の事務局の所在地および会則が,『大会案内』には岩手県立大学で開催される第68回大会について,『応用心理学研究(機関誌)』には第26号の目次が,『ニュースレター』には第2号の目次が,『認定「応用心理士」』には,資格申請の概要および登録者名簿(平成11年11月30日現在)が掲載されています。
今後,インターネットの利点を生かしたサービスを撮供していきたいと考えています。
(富士短期大学教授)

日本応用心理学会第67回大会について

大会準備委員会委員長 坂野 登

時の経つのは本当に早いものです。9月9日(土),10日(日)の2日闇,神戸親和女子大学で第67回大会が開かれてから早3月あまりが過ぎました。心配した台風も来ず,日差しの厳しい9月の快晴の2日聞,定年坂といわれるあの坂道を,汗をかきながら上られた会員の方々も多かったことでしょう。また復興の途中にある神戸の印象はいかがだったでしょうか。おかげで300名を越す参加者がありましたが,臨時会員,院生・学生が80名と多かったのも印象的でした。大学や学生についてどのような印象をお持ちでしたでしょうか。学生たちは精一杯がんばってくれて,多くの参加者からお褒めの言葉をいただきうれしく思ったことでした。学生たちもいい思い出になったと申しておりました。
大会には130を越える研究発表,4つの公開シンポジウム,2つのワークショップ,それに会長報告を用意いたしましたが,いずれも盛況に終わることができ,皆さまのおかげと感謝いたしております。発表取消も少なかったように思います。また懇親会も大変盛況で盛り上がり,会場が狭く感じられるほどでした。
大会それ自体については,教室の数が限られていたために,プログラムの編成で研究発表の割り振りに多少の無理が出てしまい,ご迷惑をお掛けした参加者も多かったのではなかったかと危慎いたしております。後残すところは発表論文集の発送だけとなり,この学会ニュースレターが出る頃には皆さまのお手元に届いている頃ではないかと思います。どうも大会の開催については皆さまにお世話になり,色々と有り難うございました。準備委員会メンバー一同を代表いたし厚くお礼申し上げます。それでは皆さま第68回の岩手県立大学での大会でお会いいたしましょう。

名誉会員の御推挙について

名誉会員のご推挙
以下の方々が第67回大会において,本学会名誉会員にご推挙されました。
内海 滉先生 大久保 康彦先生 田中 冨二夫先生 花沢 成一先生(五十音順)