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記念大会企画:公開シンポジウムB

日時:9月15日(日)13:00~15:00
場所:東京・世田谷キャンパス 教育研究棟G階 記念講堂

体罰を考える

企 画 者 日本応用心理学会第80回記念大会実行委員会
      日本スポーツ心理学会第40回大会実行委員会(共催)
司 会 者 三 村   覚 氏(大阪産業大学)
話題提供者 谷 釜 了 正 氏(日本体育大学)
      川 本 利恵子 氏(日本看護協会)
      角 山   剛 氏(東京未来大学)
指定討論者 西 條 修 光 氏(日本体育大学)
      藤 田 主 一 氏(大会委員長,日本体育大学)

【企画趣旨】

 第80回記念大会を開催するにあたり,公開シンポジウムのひとつとして「体罰」を取り上げる。今日,社会のさまざまな領域において体罰やハラスメントなどが大きな問題になっている。特に,スポーツ場面では体罰による事例が絶えない。応用心理学が関係する分野は広範囲にわたるため,体罰やハラスメントなどの問題を多面的に議論するだけでなく,得られた研究成果を社会へ発信することができる。本シンポジウムでは応用心理学の中から体育・スポーツ領域,医療・看護領域,産業・組織領域を取り上げ,各領域における現状や取り組みなどを中心に話題提供していただき議論を深めたい。なお,本シンポジウムは本年11月1日~3日に日本体育大学で開催される日本スポーツ心理学会第40回大会との共催で行われる。

【話題提供】

体罰の根絶に向けて  日本体育大学の取り組み

谷釜 了正(日本体育大学学長)

 高校の運動部における「行き過ぎた指導」(体罰)が社会問題化してから,日本で最も多く体育教員を輩出してきた本学においても「体罰」の根絶に関する問題は喫緊の課題となっている。これまで「体罰」は「熱心さ余っての行為」であるとして見過ごされてきた。しかし,粗暴性(暴力性)を排除し安全性を確保して誕生したのが近代スポーツ(競技スポーツ)であってみれば,「スポーツ」は「体罰」(暴力)とは無縁でなければなるまい。限られたいのちを生きるしかない人間のために,スポーツは,そのいのちを輝かせるための手段として機能してこそ意味がある。いのちを躍動させ,幸せ感を懐かせることこそが,スポーツの指導に従事する者の使命なのである。スポーツに体罰・暴力・パワハラ等が介在したとき,残念ながらスポーツはスポーツでなくなる。だから,スポーツ界から体罰・暴力・パワハラ等は追放されねばならない。
 日本のスポーツが学校を温床に発達した。その発達を担った体育教師を最も多く輩出してきた本学がスポーツの普及と発達の陰に隠れて体罰を容認してきたと見られているとすれば,体育教員を養成してきた大学の一員としての責任は少なしとしない。そこで。本学はことばの真の意味でのスポーツの復権のために指導の実際に分け入って体罰等の暴力の根絶に向かうことにしたのである。取り組みの概要は以下の通りである。

 (1) 教授会において「反体罰・反暴力宣言」をし,ホームページに掲載
 (2) 理事長から教職員の体罰等暴力の行使者には厳しく対応する旨,通達
 (3) 入学式の式辞に先んじて新入生に学長から「反体罰・反暴力」を宣言
 (4) 理事長と学長が新入生の授業(15週)の中でそれぞれ1週分,反体罰等に関して講義
 (5) 運動部を巡り,反体罰・反暴力宣言の趣旨を説明
 (6) 新入生に体罰に関するアンケート調査を実施
 (7) 学生の生の声を聞くために「学長直行便」をネット上で開設
 (8) 学生寮及び合宿所の巡回指導を寮館長及び部長・監督・コーチに依頼
 (9) 反体罰に関する資料集を刊行(予定),関連の授業のサブテキストとして使用    

医療・看護の立場から「体罰や虐待」を考える

川本 利恵子(公益社団法人日本看護協会)

 最近,マスコミによく取り上げられる話題にスポーツ領域の体罰問題がある。体罰は,管理責任下にある子どもなどの弱者に,管理者の立場である保護者や教師などが,教育的な名目を持って肉体的な苦痛を与えることである。この他にも苦痛を伴う類似した行為として,暴力・虐待・DV・パワハラ・セクハラなどの社会問題があふれている。暴力・虐待・DV・パワハラ・セクハラは,暴力行為によって肉体的だけでなく,精神的にも追い込んで人を傷つけることだが,現在その被害は増加する一方である。
 医療や看護領域においても例外ではなく,これらは深刻な問題として取り上げられているが,問題の構図が多少複雑で異なる面があるように思う。救急医療の現場で,本来は弱者である患者から暴力行為を受け,看護師として勤務できなくなった深刻な事例や,逆に医療者が業務上のストレスから精神を病み,弱者である患者に看護ケアとはかけ離れた行為である虐待をしてしまった事例を紹介する。
 しかしながら,看護ケアは患者の意に添わなくても治療上どうしても行わなければならないものもある。その時は,そのケアが患者にとって苦痛を伴う行為になってしまうことがある。 そこで,看護師が患者に「爪はぎ」という虐待を行ったとして逮捕され,マスコミにも大きく取り上げられた北九州の「爪はぎ」事件を取り上げ,問題提起したいと思う。専門職者が看護行為として行ったケアがなぜそのように取り扱われたのか,事件を取り巻く状況を紹介し,人が人を傷つける行為とは,さらに人はなぜ人を傷つけるのかについて,ともに考えたいと思う。

職場でのハラスメントを考える  産業・組織心理学の立場から

角山  剛(東京未来大学モチベーション行動科学部)

 厚生労働省「男女雇用機会均等法の施行状況」によれば,平成21年度に都道府県労働局雇用均等室に寄せられた均等法に関する相談は23,301件で,そのうちセクシュアル・ハラスメント(以下セクハラ)に関するものが11,898件と最も多く,相談件数全体の51.1%を占めていた。平成24年度報告では,相談件数20,677件のうちセクハラに関するものは9,981件で,全体の48.3%と若干減少はしているものの,やはり相談件数のほぼ半数を占めている。
 職場においてはさすがに直接の肉体的暴力を伴ういじめは少ないが,上記に見るように,セクハラは現実に職場で起きている深刻ないじめ(ハラスメント)の一つであり,特に女性がターゲットとなる場合が圧倒的に多い。発表者らは過去に職場のセクハラ問題を取り上げ,心理学的な視点からいくつかの研究を行った。今回シンポジウムではHulinら(1996)が提唱したセクハラの統合過程モデルに基づいて行った研究結果を紹介しながら,組織状況や組織風土とセクハラとの関係を見ていく。
 発表者らはまた,セクハラ研究の流れの中で,セクハラに類する行為の源流としていじめをとりあげ,こども時代のいじめの長期的な影響についても研究したことがある。そこでは,自尊心が低くて抑うつ性の高いいじめ被害者ほど,いじめによって強い心理的影響を被り,自尊心はさらに低く,抑うつ性はさらに高くなるという「いじめの悪循環モデル」が見いだされた。
 職場におけるいじめはさまざまなかたちをとって広がっており,これは日本に限らず海外でも見られる現象である。今回は発表者らがこれまでに行った研究を通して,職場でのハラスメント防止に向け何をなすべきかを考えてみたい。

【シンポジスト紹介】


三村 覚(みむら さとる)
   1973 年生まれ。日本体育大学体育学部体育学科卒業。日本体育大学大学院体育科学研究科体育科学専攻修士課程修了。日本大学大学院文学研究科心理学専攻博士前期課程修了。日本大学大学院文学研究科心理学専攻博士後期課程修了。
 博士(心理学)「呼吸運動の測定とその応用に関する生理心理学的研究」。
 現在大阪産業大学人間環境学部スポーツ健康学科准教授,同大学院人間環境学研究科博士前期課程授業担当。専門は実験心理学(生理心理学・精神生理学),スポーツ科学(スポーツ心理学)。

谷釜 了正(たにがま りょうしょう)
   1948年生まれ。日本体育大学体育学部体育学科卒業。東京教育大学大学院体育学研究科修士課程修了。日本体育大学助手,講師,助教授を経て1995年教授,同大学大学院博士後期課程教授。博士(体育科学)。学長室長,図書館長,体育学部長を歴任し,2010年より日本体育大学学長。専門分野はスポーツ史。
 日本オリンピック・アカデミー理事,スポーツ史学会理事,日本スポーツ運動学会理事,スポーツ文化調査研究協力者会議委員,日本高等教育評価機構評価委員,トップアスリート養成校基本構想懇談会委員・座長,体育大学協議会理事,関東ソフトボール連盟会長等を歴任。

川本 利恵子(かわもと りえこ)
   1954年生まれ。中京大学大学院文学研究科心理学専攻修士課程修了。山口大学大学院医学研究科博士課程修了。山口大学医療技術短期大学部看護学科助手・講師,産業医科大学医療技術短期大学看護学科講師・助教授を経て,1996年産業医科大学産業保健学部第1看護学教授。
 2007年九州大学大学院医学研究院保健学部門看護学分野教授。2012年同副部門長。2013年6月より公益社団法人日本看護協会常任理事。看護師。医学博士。日本看護研究学会理事,日本応用心理学会常任理事,日本老年行動科学会理事,日本看護科学学会評議員等を歴任。

角山 剛(かくやま たかし)
   1951年生まれ。立教大学大学院文学研究科修士課程を経て同社会学研究科博士後期課程単位取得退学。立教大学助手を経て1983年国際商科大学(現東京国際大学)専任講師,助教授,教授を経て2011年9月より東京未来大学教授。現在,モチベーション行動科学部長・同大学モチベーション研究所長。米国ワシントン大学ビジネススクール客員研究員(1992~1993)。専門は産業・組織心理学,社会心理学。産業・組織心理学会会長・常任理事,人材育成学会常任理事,日本応用心理学会理事等を歴任。

西條 修光(さいじょう おさみつ)
   1945年生まれ。日本体育大学体育学部体育学科卒業。東京理科大学研究生。1997年日本体育大学教授。1998年同大院体育学研究科教授。日本体育大学体育研究所所長。現在,同大学院体育学研究科トレーニング科学系主任,同研究科長。専門はスポーツ心理学。JOCスポーツ医科学・情報専門委員会科学サポート部会メンタルマネージメント研究班班員,日本バドミントン協会強化スタッフスポーツカウンセラー,健康運動実践指導者講習会講師等を歴任。
 日本スポーツ心理学会第40回大会委員長。

藤田 主一(ふじた しゅいち)
   1950年生まれ。日本大学大学院文学研究科心理学専攻博士後期課程単位取得満期退学。城西大学経済学部講師,城西大学女子短期大学部専任講師,助教授を経て1997年同教授。2005年より日本体育大学教授。専門は教育心理学,教育臨床心理学。応用心理士,臨床心理士。日本応用心理学会常任理事・副理事長を経て2012年より同学会理事長。日本教育心理学会理事,日本パーソナリティ心理学会理事・常任理事,日本心理学諸学会連合検定局「心理学検定」常任運営委員等を歴任。
 日本応用心理学会第80回記念大会委員長。


  日本応用心理学会主催「記念セレモニー」

  第80回記念大会企画「特別講演(スポーツと文化)」

  第80回記念大会企画「公開シンポジウムA(オリンピックを語る)」